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翌日の蓮子は朝から浮かれていた。
『続いて、白見浜公園近辺で発生した、連続傷害事件についてです。警察は、目撃証言をもとに、犯人と思われる――』
テレビのニュースは素通りしていく。
(私は今日、拓さんとゴールする)
蓮子は変身のクスリを取り出した。
「この薬のおかげだわ」
薬をぎゅっと握ってから、慣れた手つきで飲み込む。
いつにも増して気合を入れた化粧、勝負服であるワンピース。
(コートは……そうね、もう一着、冬物があったはず)
クローゼットの方へ確認に向かった。
(……あら?)
——蓮子はソファーに座っていた。座りながら眠ってしまっただろうか。
窓の外は、夕焼け色と群青色がまぜこぜになっている。
「そろそろ出ないと」
幸いにも、出かける準備は済んでいた。コートを羽織り、鞄を持って、部屋を出た。
「今日が私の、人生で一番幸せな日だわ」
――待ち合わせ場所の駅前には、すでに拓がいた。
「お待たせしました、拓さん」
蓮子は精一杯の笑顔を浮かべて、愛しの人に駆け寄る。
拓が蓮子に向ける目は、化け物へのそれだった。
「拓さん……?」
拓は自身のスマートフォンを蓮子に向ける。
「君は、この事件にかかわっているんじゃないのかい」
訳が分からない蓮子は、スマートフォンの画面を見る。
「連続傷害事件……?」
白見浜公園近辺で、女性や児童が刃物で切り付けられている事件だ。
「目撃情報によると、犯人と思われる人物は、ベージュのコートを着用しており、身長は――」
読み上げる蓮子は、特徴を言えば言うほどゾッとする。
(何で、これって、まるで私みたいな……)
読み上げを続ける蓮子に、拓が言葉を被せる。
「君は一件目の事件が起きた日も、二件目の日も、あの公園にいただろう」
「どうして。確かに、一週間前は、行きました。拓さんとの待ち合わせの時間まで、暇を潰そうと。でも、最初の事件が起こった日は――」
「シクラメンの花びらがついていたじゃないか。あの公園に咲いている。それが、君のアパートの扉にもあったんだろう? 僕のところに来る途中でついたわけではなく、シクラメンが咲く場所に出向いたということだろう?」
「でも、だからって――」
「それじゃあ、ベージュのコートを着てこなかった理由は? 冬の寒い時期に!」
拓が背中を向けた。
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