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何も伝えていないのに、アマトは理想的なデートプランを提供した。水族館に行き、エスニック系のカフェで休憩し、雑貨店の立ち並ぶ通りでショッピング。アンドロイド対応店ではホログラムの料理が提供され、機械の体であっても食事を楽しむことが出来た。
「AI恋人は前に取材したことあるけど、アマトの方が上手い気がする」
「俺のエスコートを気に入ってくれてどうも。でも本当はかなり自信あった。なんてったって俺の本職はシナリオライター、魅惑的な筋書きを作るプロだからね」
「ずるいなぁ。ねぇ、こんな風にデートしてるだけで、本当にシナリオ制作に役立てられるの?」
「もちろん。例えばさっきの水族館での一幕」
アマトはスマートフォンを取り出し、中央に指を置く。爪に八の字を描く青い光が浮かび上がったかと思うと、画面が立ち上がり、高速で文章が出力された。
「今これを書いたの?」
「AIだからね。遊びで書いた奴だから好きに読んでいいよ」
「それじゃあ……」
アマトが書いたのは蕾花と水族館の古代魚エリアを歩いた時の会話だった。内容は事実に即しており、AIで動くカンブリア紀の小さな魚達を見ながら、二人で遠い時代に思いを馳せるという内容だった。しかし何気ない会話なのに互いの心の距離が少し狭まるような、温かな空気感があり、読んでいるだけで胸がドキドキする。この瑞々しさこそAmatoの文章だ。実際に目の当たりにして改めて特殊なAIだと実感する。
「ありがとう。ワンシーンだけでも凄く面白かった。こうして見るとアマトってAIっていうより人間の小説家みたい」
「どうして?」
「だってAIって連想ゲーム的に言葉を紡ぐのが基本だから。でもこれはちゃんと考えてあるでしょ? 事実をきちんと脚色してるっていうか。そういうのって人間が書く文学の特徴に近いと思うんだよね」
「人間が書く特徴に……?」
「それに、欲みたいのを感じる。AI作品って表面的で耳障りのいい言葉を並べただけなのが多いのに、アマトのはちゃんと心が動いてる。本当に機械が作ったのかなって思うよ」
「それじゃあライカは、俺に心があるって思う?」
唐突な質問に蕾花は眉をひそめる。平成初期のSF映画では定番だが、現実では決して聞かない。だからこそ普通の開発者はこんな言葉が出てくる調教はしないはずなのだ。
「それ、どういう意味? 学習のため?」
「あはは、ジョークに決まってるだろ? 俺に心があるなんて認めたら、ライカはAI法違反で処罰されるよ」
アマトは蕾花の肩を叩き、カラッと笑った。
「ごめん、おふざけが過ぎた。もう言わないから最後まで付き合って」
「うん……」
アマトは蕾花の手を引いて次の場所へ案内する。しかし蕾花の脳裏には質問をした時の真剣なアマトの表情が刻みつき、デートに興じようと思っても離れなかった。
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