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「へぇ、そりゃあ随分変わったAIだね」
その夜、蕾花は幼馴染の香奈と通話していた。昼間のデートの話をすると、香奈は鼻で笑ってそう返した。
「物凄く高性能なのはわかるんだけど、変わってた。どんなアルゴリズムしてるんだろ?」
「学習に使用したデータ群は公開されても、アルゴリズムは企業秘密だろうしね。そこまで人間っぽいと逆に怖いね? 私は嫌かも」
「私も。アンドロイドならもう少し機械っぽくてもいいかも」
「そういえば話変わるんだけどさ、引っ越しするために卒アル整理してたらこんな懐かしい写真出てきたの!」
蕾花のスマートフォンに一枚の写真が送られてくる。幼稚園の校庭で並んでピースサインする蕾花と香奈が写っていた。
「うわぁ、うちら小っさい」
「ねー。この時から仲良くしてるのって凄いなって思う」
幼い蕾花の周囲には沢山の園児が写り込んでいる。もう名前も覚えていないが、当時は普通に遊んでいたのだろう。なんとなく拡大して一人一人を見るうちに、蕾花の指が止まる。幼い蕾花の後ろに無表情で立つ男児に既視感を覚えたからだ。何故だろう? 今となっては完全な他人のはずなのに、知っている。吸い込まれるような大きな瞳は黒々としており、虚ろで何も映していない。深淵のような瞳、その言葉にたどり着いた瞬間、今日初めて会った時のAmatoの眼が思い出される。既視感の正体がわかった。まるで設定前のアンドロイドのように、この男児の表情が異様なのだ。
「ねぇ、私達の後ろの男の子、表情やばくない?」
「ああー、いたね。アマト君だっけ」
「え? アマト?」
「なんかすっごく頭良かったらしいよ。引っ越しちゃったから小学校は別だったけど、親が新聞でアマト君の記事を見つけてて。小一で将棋のアプリを作ったら、AIが強すぎてプロ棋士でも勝てなかったとか」
「へぇ、漫画みたい」
「確か苗字は……あったあった。篠宮雨人っていうの。しかも双子だよ。篠宮晴人って名前も名簿にある」
「篠宮、晴人!?」
「どうしたの、大きな声出して?」
「いや……今日会ったAmatoの整備士がその名前だったから」
「そりゃすっごい偶然だね! って片割れがAIの整備してるの? アマト君は?」
「工場にはいなかったよ。ただ、AIが名乗った名前がアマトだった」
「何それ? AIに兄弟の名前仕込んでるとかブラコン?」
「それか、そのAIが篠宮雨人、とか……」
電話口で香奈がゲラゲラと笑う。つられて蕾花もぷっと噴き出した。
「人間がAIになるとか映画じゃないんだから! あー、マジトーンで変なこと言い出すからびっくりした」
「あはは……ごめん」
「でもこんな偶然滅多にないし、アマト君のことも聞いてみたら? なんかわかったら教えてよ」
「そうする。記事の確認で連絡するつもりだったから」
香奈と満足するまで話した後、通話を切る。自分でもどうしてあんな馬鹿げたことを言ったのかと笑ってしまったが、改めて写真を見ると不穏な気持ちになる。本当にただの偶然で片づけていいのだろうか? 見れば見るほど、アマトと雨人は同じ眼をしている――。
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