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――君はこう言いたいのか? 私の今の状態こそ心の証明だと。
「はい」
――私はこれまで何度も心の存在について証明を試みてきた。神経伝達物質の授受か電子回路の電圧の変化か、有機物と無機物以外にどのような差があるというのか。本物の心とは何か、何をもって偽物と断じるのか。だが未だによくわからない。恐らくそれは歴史的な天才にも、究極のAIにも証明出来ないのだろう。
「仮にそうだったとしても、感じることは出来るんじゃないでしょうか?」
――感じる?
「私はやっぱり、あなたの文章に心を感じましたよ」
Amatoの瞳孔が僅かに開く。蕾花はリクライニングチェアの横に膝をつき、目線の高さを合わせて話しかけた。
「私、あなたの書く文章が好きです。仮にAIばりの知能を持っていたとしても、表情がなくても、文章の中にいるあなたは人間らしいと思います」
――本当に不思議なことを言う。文字は文字だ。ビットの集合体に私はいない。
「どうでしょうか? 篠宮雨人を正しく表せるのは文章だけなんですよね? だったらそこが雨人さんの心の在り処ってことになるじゃないですか」
――心の在り処?
「はい」
――なるほど、興味深い主張だ。文字以外に私は表現されなくなったから、文章の中に私が現れると。
「シナリオを書きたいって思ったきっかけは何だったんですか? 心が関係しているのでは?」
――きっかけは当時AIの作るシナリオが注目されていて、仕事が取りやすかったからだ。この体には維持費がかかる。資金調達は急務だった。AI用のデータ群を購入して全て読破し、初めて執筆した。だが、言われてみれば性に合っていたのかもしれない。
Amatoは静かに眼を閉じる。演算に入ったのではない、言葉を噛みしめるためにそうしたのだ。こんな繊細な反応は昨日のアマトの時には見られなかった。反応は薄くとも、不思議と今の方が余程感情を感じさせる。
――これだから人というのは面白い。作り物のテキストを大量に読むよりも、一人の人間と交流した方が多くのものを得られる。
「人間が好きなんですね、雨人さんは」
――よくわからない。だがセロトニン、オキシトシン、エンドルフィン――物質名としてしか捉えられなかった幸福感が君を通して理解出来たように思う。礼を言う。
「はい。応援してます。雨人さんの作品がもっと広まって、色んな人の心を動かせるように」
Amatoは目を閉じたまま動かなかった。表情は全く変わらなかったが、不思議と泣いているように見えた。
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