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「このことは口外無用でお願いします。兄の指示だったとはいえ、脳移植手術の開始ボタンを押したのは私です。日本では呼吸と心拍が止まると死と判断されます。私が殺人の罪で逮捕されれば、兄を守る人がいません。どうか」
「誰にも言いません。というか、取り上げるには話が大きすぎます。AI法四条的にどう判断されるかわかったものじゃないし」
「心を感じると言ってもらえて兄は本当に嬉しかったと思います。弟として、心から礼を言います」
「いいえ、そんな。でもよく考えたら難しいですね、心の存在を証明するって」
「天才だった兄にも証明出来なかったわけですから」
蕾花は工場の出口まで晴人に送ってもらった。外は気持ちの良い夏空が広がっていた。
「それでもきっと、相手がどんな姿をしていようと、人間には本物の心を感じ取る力がある、そんな風に信じたいと思います。……なんて、こんなの小説だけでしか成り立たないでしょうか」
「いいと思いますよ。事実は小説より奇なりって言います。小説だと思っていたら現実だったなんてことがあったら、素敵じゃないですか」
「それもそうですね。では私はここで。Amatoの新作、楽しみにしてます!」
晴人に別れを告げ、蕾花は晴れやかな顔で工場を後にした。
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