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4.MICHIZANE
いつの間にかMUSEが席に戻って、何やらKOUMEIと話し込んでいる。
俺はと言えば、部下からの問い合わせに指示を出し終わったところだった。
「お待たせ~」
この場違いなニューハーフトーンは、MICHIZANEだ。
「Mish濃いめでちょうだーい。あと、Leakyもね」
俺たちのことは眼中にないとばかりに、自分だけ注文すると、MICHIZANEは深々と溜息をついた。
「どったの、MICHIZANE? 元気ないね」
お前もだろうと、すかさずMUZEにツッコミを入れる。
「ちょっとぉ、ミッチーって呼んでって、前から言ってるでしょう? んもう」
いきなりMishが回ったのか、早くもオネエモード全開だ。
ちなみにMICHIZANEの職場は、教育現場。DXの親玉のような仕事をしている。
「ねぇ聞いてよぉ、あいつら酷いのよ? 全部アタシのせいにしちゃってさぁ」
「いきなりどうしたんだよ、MICHIZA…ミッチー。話が飛び過ぎてて、さっぱりだぞ」
俺が説明を求めるなり、MICHIZANEの口調が変わった。
「おうおう、AKIRA。てめぇ、いつからそんなに偉くなりやがった?
てめぇごときにせっつかれてするような、安い話なんかありゃしねぇよ」
…頭痛がしてきた。MICHIZANEが、江戸っ子のオネエ系キャラだったのを忘れていた。
「まぁまぁ、ミッチーはん、そう怒らんと。ちゃんと話聞きますよって」
すかさずKOUMEIが場をとりなすと、しばらく黙り込んだまま、MICHIZANEは虚空を睨みつけた。
「いいか、てめえら。耳かっぽじって、よーっと聞きない。教師の働き方改革が始まって早7年。たしかに奴らの激務は解消された。そらぁそうだわな。テスト作りも、採点も、生徒の評価も、親御さんのお相手も、何なら勉強会ですら、AI任せになったんだ。
最初のうちは、俺も良かったって思ってたんだぜ? 何なら、一緒に喜んだりもしてやったさ。
ところが、だ。あいつらときたら、ここ最近、職場に顔を出さなくなっちまった。 自宅から気が向いたときに、リモートでAIに指示出すだけよ。まぁ、プリント作ったり、採点したりは、まだ良いわな。問題はよ、生徒と面と向かって話すことまで、おざなりにしちまってるってことさね」
だが、今の授業は基本リモートのはずだ。
「授業のこっちゃねぇんだ、AKIRA。進路相談や、三者面談の方だよ。こればっかしは、文科省のお達しで、リアルで教師と生徒が昔ながらに向き合ってやることになってんだよ」
「え? 別にリモートで良くないすか?」
MUZEが当然の疑問を挟む。
「分かってねぇな、MUSE。人間ってのはよ、面と向かって話すことでしか、得られない情報ってのがあるんだよ。ところが、今の教師連中は、それを音声・画像合成AIで済ましちまうんだ。で、問題視した保護者たちが、大臣に書簡を送りつけた結果が、この前の騒ぎさね」
そういえば数日前に、文部科学大臣とデジタル大臣の一悶着があったばかりだ。
極端に昔ながらの教育方針にこだわる文部科学大臣と、これまた極端にDX推進を強行しようとするデジタル大臣だ。話し合いというより、殴り合いに近かったらしい。
今の与党トップが、「透明な政治」をスローガンに躍進したはいいものの、おかげで見たくもない、中年オヤジのボクシングをネット配信してしまったというオチがついた。
「ねぇ、本当にこのままでいいのかしら? 子供たちの声を、きちんと拾えるようには、まだなってないのよ?」
いつのまにか、またオネエキャラに戻ったMICHIZANEの問いかけが、虚しく響いた。
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