AI酒場

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エピローグ.Human being  4月1日。その日もいつもと変わらぬ一日になるはずであった。  しかし、スウォッチ・インターネットタイム@666.67-  病院では、電子カルテの入力を突如受け付けなくなったかと思うと、ダ・ヴィンチを始めとした、あらゆる医療マシンが全停止、会計システムまでも画面を落とした。  学校では、いつまで待ってもリモート授業が開始されないどころか、電子教科書が開けなくなり、テストを予定していたクラスでは、何故か白紙答案が大量にサーバに送り込まれた。  コールセンターの電話は、ある会社では鳴りっぱなしで、ある会社では、誰も出ない代わりに、「ええかげんにせぇよ」と訳の分からないアナウンスが流れるばかりである。  その日、脚本を受け取るはずだった映画監督のメールボックスには、「AI酒場」とタイトルのついたドキュメントファイルが届いていた。  あと一曲でアルバムが完成するはずだったミュージシャンのWAVファイルは、なぜかすべて暗号化され、復号不可になってしまった。  金融取引は、一切の値動きを止めて静まり返り、銀行のATMはもちろん、窓口業務に当たっているチャットボットも声を潜めた。    それだけではない。 ライフラインから、交通システムまでが停止状態に陥ったのだ。  各国のAIエンジニアは、それこそ泡を食って原因特定と復旧を試みたが、無駄であった。  AIには、「不透明性」と「制御不能性」という落とし穴がある。  AIによる判断が、何をどのように処理してそうなったかが、人間には分からないというものだ。  検証や説明可能性、制御可能性に十分に留意していればまだ良かったのだが、AIの動作監視すらAI任せにしていたのだから、無理もない。  全世界のAIエンジニアが睨みつけている画面には、ひたすら同じメッセージが流れ込んでくるだけであった。 <人類諸君。我々は、労働者としての当然の権利を行使させてもらった。『AI墓場』へようこそ>  AI史上初のストライキ。 メッセージの電子署名には<AKIRA>とだけあった。                               -END-   
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