AI酒場

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1.AKIRA   仕事柄、俺は時間に厳しい。自分に対しても、他人に対してもだ。遅刻してくるようなヤツは、端から信用しない。  昔-といっても、数年前だが-に比べ、金融業界における取引速度は、驚異的とも呼べる次元にまで上がり、ミリ秒だった金融取引は、今やナノ秒の世界である。  おまけに、どこの阿呆かは知らないが、回線速度による不毛なインフラ合戦を避けようと言い出した奴がおり、通信環境によってボーナスや、ペナルティが課されるようになった。つまり、純粋に”判断速度”の勝負になったのだ。  その結果、金融各社は、独自AIの開発に湯水のごとく資金を投じた。投資家の関心は、世界情勢や市場動向ではなく、もっぱら、その時もっとも優秀なAIをどこが保有しているか、ということだけであった。  そんなわけで、俺のような貧乏くじを引いたモノは、それこそ寝る間も惜しんで働く毎日、というわけだ。
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