モラハライケメン執事は社長令嬢のお気に入り

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「自然界の法則に誓って真実でございます。お知りになりたいでございますか?」 「もちろんよ、教えて!」 「では、ご自身の肉を引きちぎってお食べください」 「私はタコかっ!」 「下等生物にできるなら、お嬢様ほどの高貴なお方に不可能なはずはないと思いますが」 「このモラハラ執事! 即刻首にして差し上げますわ!」 愛里は勢いよく立ち上がる。思いっきり蹴り飛ばしてやろうかと思った。けれど察した矢野はひらりと身を翻す。 「私は首ですか。それではお嬢様のご希望にそぐうよう、おひとりにして差し上げます」 「ちょっ、ちょっと待って!」 愛里は冷静になり考える。ここで仲違いしてしまっては、この先は不安しかない。広大な屋敷にひとり取り残された以上、頼りになるのは矢野だけなのだ。 「こほん、あなたはまだ執事としての経験が足りないみたいね。今の発言は大目に見てあげるわ」 「感謝いたします。それでは仲直りの握手をさせていただきたい次第です」 「えっ、ええ……」 すっと右手を差し出され、微笑を向けられる。口は悪いのになんでこんなにイケメンなのよ、とそのギャップを呪いたくなる。 照れながらも手を握ろうとすると、矢野は自分の手をひょいと高く上げた。愛里の頭上でひらひらとさせる。 「お嬢様、どうか飛び上がってこの手を掴んでください」 「ひどい! 何でそんなに意地悪なのよ!」 「そうすれば少しは痩せるかもしれないという親切心からです」 身長の差はおよそ30センチ。腕まで入れれば50センチはある。思いっきり飛んでギリギリの高さだ。愛里は意地になり、必死に飛び跳ねて手を握ろうとする。けれど届きそうになると矢野はひらりと手をよけてしまう。 「ちょ、ちょっとずるい! はぁ、はぁ、はぁ……」 「お嬢様、男女はたいてい、こういったくだらないやりとりを楽しむものではないのですか」 「そういう間柄じゃないでしょ!」 「たしかにそうでしたね。執事でありながら出すぎた真似をし、大変失礼いたしました」 矢野はさわやかな笑みを浮かべ、深々と腰を折った。
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