モラハライケメン執事は社長令嬢のお気に入り

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★ およそひと月ほど前のこと。 AI開発イノベーション企業であるミグミグカンパニーの社員は、開発した人工知能を搭載した人型アンドロイドのプレゼンテーションを行っていた。 聞き手は安住電機の重役たちである。 「――このようにわが社のAIは最新の技術を用いて作製されております」 「こちらとしては、労働資源の代替としてのAI活用を想定している。だから人間を相手にする接客業にも対応できなければならない。つまり、我々の求める製品は、生身の人間と遜色のない外見と性格を有するヒューマノイドだ。この製品は我々の要求に耐えうるかね?」 「はい、我々は以前、ありとあらゆる知識、会話、そして行動パターンを学ばせ、完璧なアンドロイドの作製に成功しました。けれど完全であればあるほど人間らしさを失う結果となり、試用段階であからさまに敬遠されてしまったのです」 「なるほど、たしかに人間とは欠点で他人に愛される生き物だからな。それであえて完璧な思考アルゴリズムを避けるようにしたというのか」 「はい、この不完全な思考過程を再現することが、最も困難を極めました」 試作機として作製された不完全な思考のアンドロイド、それこそが『矢野1号』。人工知能のアルゴリズムはシンプルだった。 雛型(テンプレート)となる人間の記憶と思考プロセスを電気生理学的に読み取り、そっくりそのまま人工知能として置換したのだ。『矢野1号』の雛型はミクミクカンパニーの技術者のひとりだった。 「けれど、それが人間と遜色ないとまで言えるかは疑問だな。――それではひとつ、モニター実験を行って性能を確かめようではないか」 「と、申しますと……?」 「矢野1号を私の娘の執事として採用する。期間は1週間。その間、屋敷に仕掛けたカメラで追跡し、人工知能だと気づかれなければ貴社のAIを採用させていただこう」 そうして実験は始まった。
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