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ついにモニター実験が最終日を迎えた。執事の矢野はそれまでと同じリズム、同じ所作で愛里の起床を迎える。
「おはようございますお嬢様、今日もお美しゅうございますね」
矢野は愛里に冷たいジト目を向けられる。
「あなた、朝から心にもないことをよく言えるわね。では命令しますが、この場であなたの正直な本心を明かしなさい」
矢野に迷いはなかった。
「美しいというよりは、愛らしいというべきでしょうか。コロコロしてますので」
「ほら、なんで歯に衣着せないのよ!」
「実は私、コロコロした類の動物が好きでして。たとえばタヌキとか、アライグマとか、レッサーパンダとか……」
「私があなた好みだからって、一文も得にならないでしょーが!」
立ち上がって両手を振り上げると、矢野は嬉しそうな笑みを浮かべる。
「お嬢様の、そのお姿はあたかも威嚇するレッサーパンダのようで大変愛しゅうございます」
「レッサーパンダで悪かったわね! 私は動物好きだけど、ひどい動物アレルギー持ちなのよ!」
「なるほど、それでご自身がレッサーパンダになろうと?」
「なりたくてなってるわけじゃないから!」
もう何を言ってももふもふの類に扱われる。愛里はそう察し、口を膨らましてそっぽを向いた。ソファーにどっかと腰を下ろす。
矢野は機嫌を損ねた愛里にすました表情で淡々と告げる。
「ところで私の勤めは今日が最後だとご存じでしたでしょうか」
「えっ……?」
愛里ははっとなって振り向いた。不安げな、そして憂いを伴う寂しげな表情で。
「今日まで、なの……?」
「はい、さようでございます。そう仰せつかっております」
すると愛里は困惑した顔で逡巡してから、尻を上げて体をソファーの端にずらした。隣に空いた空間をポンポンと手のひらで叩く。
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