モラハライケメン執事は社長令嬢のお気に入り

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「ここに座ってちょうだい」 「私が、ですか? それは失礼にあたりませんか?」 「失礼なことなんて、もう星の数ほど経験してきたわ。この1週間でね」 「確かにそうでしたね。――それでは僭越ながら」 矢野が腰を下ろすと、愛里は物言いたげな表情をした。何度も口を開こうとしては止めた。それでもついに意を決して唇を矢野の耳元に寄せ、小声でこう尋ねた。 「あなた、ほんとうは人工知能搭載のアンドロイドでしょ?」 矢野は驚いたが、それを表情に出さずにすんだのは人工知能の特権だ。けれどわずかな反応を愛里は見逃さなかった。 「やっぱりね」 「どうしてお気づきになったのですか?」 「だって、この社長令嬢である私にここまで無礼なこと言えるなんて、普通の感覚ではありえないから」 「正論です。ですがAIとしての欠陥ではなく、私のトレーニングデータが忖度(そんたく)のない輩だったためです」 「あら、そうだったの。じゃあ人選ミスには違いないわね。口は(わざわい)の元って言うじゃない」 「正直、私自身、そう自負しております」 矢野が柄にもなくしゅんとした顔をする。 欠点の責任が技術者にあるとすれば、目の前のアンドロイドを責めるのも申し訳ない気がした。 「でもこんなポンコツ思考のアンドロイドをよこすなんて、きっとお父様が私を使って試していらっしゃるのね」 「申し訳ございませんが、その通りでございます。――お嬢様は大変賢いお方なんですね」 「いまさら気づいたの?」 「カピバラを彷彿とさせる、無我の境地の雰囲気がございましたので」 「だからその口の悪さが気づかれる理由なのよ! あなた、外見は人間にしか見えないクオリティなのだから、ちゃんと技術者と相談してそこらへんを直すように。そうでないと私以外、誰にも受け容れてもらえないから!」 「いや、その機会はおそらく訪れないでしょう」
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