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矢野が愛里の元を去ってからというもの、愛里はひどく体調を崩していた。
「お父様、私、最近なぜか食欲が湧かないの。だから今日も夕食は遠慮させていただくわ……」
「そうか、疲れがたまったんだろうな。大事なのはとにかく十分に休むことだ」
普段は食欲旺盛だった愛里がまるっきり食事を口にしなくなってしまった。回復の兆しは見えなかった。
重い病気ではないかと不安に襲われた父は、あらゆる名医に愛里の診療をお願いした。けれど身体的な異常は何も見つからなかった。精神的な問題が原因だろうと結論付けられた。
「愛里、何か言えない悩み事があるのか?」
「それが……どうしてかわからないけれど、胸の奥にもやもやしたものがつっかかって食べ物が喉を通らないの……」
解決の糸口が見えないままやせ細っていく愛里を、父はただ見守ることしかできなかった。
そんな令嬢の異常事態は企業の間で噂になった。そこで聞きつけたミグミグカンパニーの社長はこんな提案を持ちかけた。
「我々の人工知能は雛型となる人物の思考回路を複製することで作製しています。ですからお嬢様の心の病の原因は、我々の技術で解明できるかもしれません」
「むぅ……娘の心中をまさぐられるとは良い気はしないが、助けるためには仕方ない。では極秘で解析をお願いしたい」
「かしこまりました」
「だが仮に成功しても、人工知能の技術提携については白紙のまま覆ることはないと断言しておこう。これはあくまで私的な案件だからだ」
「百も承知しております」
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