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やっぱり今日も目覚めは最悪で、体の節々が痛い。疲れが取れている様子はなく、肩がどんよりと重かった。
このところ、ずっとこんな調子だ。快適な睡眠が取れず、日中も不意に眠気が襲ってくる。なのに、夜になるとなかなか寝付けない。
私は顔色が悪いのをメイクでごまかして出勤した。職場に着いてすぐに隣のデスクにいた律子に相談をする。
「最近、本当に眠りが浅くてさ。全然疲れが取れなくて」
会社では一番仲が良い同期の彼女。些細なことでも話し合う仲だ。
「不眠症? わかるよ。わたしも前まで不眠症だったから。今はもう随分と良くなったんだけどね」
「どうやって治したの? 病院とか?」
「睡眠アプリ。知らない? 凄いんだよ」
「えー、なにそれ、教えてよ」
仕事をしているフリをしながら、ヒソヒソ声で話を聞く。
「睡眠AIっていうやつでさ、寝てるときにAIが眠りの状態を判断してくれるのよ。寝息とか寝言とかいびきとかで」
「うん、それで?」
「眠りが浅いと感じたら、ヒーリングミュージックとか癒しの音なんかを眠りの邪魔にならないように流してくれてるんだって。わたしこれ使うようになってから一回も夜中に目が覚めることもなくなってさ。登録がちょっと面倒で、音声入力とかもあるのがめんどくさいんだけど、でもほんとにおすすめだよ」
律子に教えられたそのアプリをすぐダウンロードした私は、ウキウキな気分で家に帰ってきた。やっと眠れる、そんなことを考えていたら自然と笑みが溢れる。マンションのエレベーターに乗り、五階で降りたところでマンションの住人と会った。
「こんばんわ」
「あ、こんばんわ」
その男性は私の隣りに住んでいる人だった気がする。背が高く、二十代後半のイケメン。彼を見て少しだけテンションが上がっていたのは内緒のこと。
「素敵な笑顔ですね。なにかいいことありました?」
「あー、いえ、ちょっとだけ」
指で豆を摘むような仕草を見せると、「ははは、それはよかった。では」と言って彼はエレベーターに乗り込んで行った。
素敵な笑顔を見られた私は、ますます気分が良くなった。
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