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彼女に初めて会ったのは、湯河原駅から徒歩でアクセスできる山だった。 山頂には5組10人程度の登山客が休憩していた。その人数でも気にならないほど十分なスペースがある。雄大な相模湾が見える。晴れていれば、遠くに初島や大島まで望めただろう。山頂に日を遮る樹木はほとんどないものの、雨が降ったりやんだりの曇天では、さほど問題ではなかった。時折ぱらぱらと降り注ぐ雨が気になり、僕も含めてレインジャケットを着用している人が多かった。 登山用のレインウェアは、遭難時でも目立つように、明るくカラフルな色が多い。 水色・ピンク・黄色ーー。 その中でも印象深い、白いジャケットと白の登山用ザック。 ボトムは、ネイビーのハーフパンツに黒いタイツ。女性のようだ。肩より少し長い髪をひとつにまとめている。連れはいないらしい。 彼女はちょうど山頂に到着したところで、どこに腰を落ち着けようかきょろきょろとあたりを見回しながら、こちらに近づいてくる。3mほどの距離まで近づいた頃「こんにちは」と軽く会釈し、そのまま通り過ぎていった。 正直なところ、このときの彼女の顔は、はっきりとは覚えていない。山に限ったことではなが、目が合うのが苦手なので、あまり人の顔を直視しないようにしている。 第一印象として、雰囲気の良い人だな、というおぼろげな感覚だけが残っている。 あと、白いレインジャケットと登山用ザックは大変そうだな、とも思った。 レインジャケットと登山用ザックのうち、どちらか片方が白い人は、これまでにも見かけた。登山はただでさえ土や泥で汚れやすい上に、汚れが付いたら目立つだろう。ましてや、どちらも白となれば、なおさらだ。だが、横を通り過ぎた彼女の純白の装いは、おろしたてのように真新しく、曇天でも眩しく輝いていた。 それから2週間後、この純白の彼女と再び遭遇することになる。
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