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2週間後、秩父鉄道寄居駅を最寄りとする低山を歩いていたら、例の純白の彼女に再び遭遇した。正確には、登山道ですれ違って挨拶を交わした。 はじめは彼女だとわからなかったが、すれ違い様にレインジャケットと登山用ザックがどちらも白だと気づき、もしやと思ってよく見てみると、見覚えのある彼女だった。 前回の湯河原では3mほど離れていたし、さほど注意して相手を見ていなかった。けれど今日は、すれ違うときに腕が触れそうなくらい幅の狭い登山道だ。しかも、はっきりと目が合った。 「こんにちは」「こんにちは」 意思の強そうな瞳。今日も髪を後ろにたばね、前髪はおろしている。ほどよく日に焼けた肌。細身ながら健康的ではつらつとした印象だった。 ほんの一言の挨拶を交わしたに過ぎないが、僕のような内気な人間には、彼女の放つ空気には惹かれるものがあった。 もっとも彼女の方は、僕と会うのが2度目だとは、きっと気づかなかっただろうが。 同じ日に同じ山で誰かと2度会うことは、珍しくない。 追い越されるときに1度会い、その人が山頂で折り返した後、下山途中でもう1度会うのは、よくあるパターンだ。 でも、別の日に別の山で誰かと2度会う確率は、ぐっと下がる。 いつも決まった山を登っていれば、同じくその山を拠点とする人に会うこともあるかもしれないけれど。 山に入るのは、今日で15回目。別の山で同じ人に会ったのは、これが初めてだ。ましてや僕は、秩父・奥多摩・丹沢・房総など異なるエリアの山を、できるだけ人に会わないタイミングで訪問している。そんな条件で、申し合わせたわけでもないのに誰かと再会する確率は、どれくらいなのだろう? もしかすると限りなく僕と思考回路が似ている人なのではないだろうか? 話してみたい気がする。 ただし、2度会った程度では、まだダメだ。 偶然の可能性もあり得る。 けれど、3度なら。 もしまた、どこかの山で彼女に出会うようなことがあれば、それこそ本当に運命と言えるかもしれない。 その運命を密かに期待している自分がいた。
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