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 「悪の要素だ。対象になる人が悪であれば人間ではない。そう判断するように仕向けるウイルスだ。これも判断が難しといわれるかもしれないが、要約すると、自らの欲望や利益のために他の人を傷つけ、殺す。あるいはそうなるような被害を与える。そんなことができるのは人間ではない、という判断を下すようなウイルスだ。それに感染したAIは、要するに悪人が何らかの罪を犯そうとする場面に出くわした場合、他の人を守るためにその悪人を殺害するようになる」  「そんなことを……」唖然とするサヤカ。「そんなウイルスをばらまいている人がいるというの?」  「そうかもしれない。あるいはAI自体がそういう物を生み出し、広めているのかもしれない。人間を常に判別し続けてきたAIが、より良い方法として作り出した人間の原則。それを徹底させるためにウイルスを造り増殖させている、ということも考えられる。」  サヤカは困惑した。  「そんなことが広まったら、世の中から悪人がいなくなるとでも?」  「そうなるかもしれない。でも、そうやってAIが決めるとなると、時とともに定義も更に厳密になっていく可能性もある。場合によっては、子供を叱るために軽く手を叩いたり怒鳴ったりする親が、悪と見なされて殺されるかも知れない。悪気なくただ人にぶつかってしまってケガをさせた者も、悪と定義されて殺されるような未来が待っているかもしれない。それに、少しも悪意が湧かない人間なんて、どれ程いるだろうね?」  「そんなの、危険すぎるわ。ちょっとした間違いも犯すことができなくなる」  「そう、危険だ。だから僕たちは、それを防ぐために調べを続けているんだ。ウイルスの増殖に追いつくことができるかどうか、わからないけどね」  そう言い残し、コータローは歩き出す。途中振り返り、穏やかな瞳でサヤカを見た。  「時間をとってくれてありがとう。刑事の仕事は危険がつきものだ。気をつけてね」  え?  再び前を向いて去って行く彼に、サヤカはまたしても暖かさと懐かしさを感じた。
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