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土用の丑の日
「鰻、食べたい。鰻、食べたい。鰻、食べたい」
電話で呪文のように、唱えているのは、仲良しまっさん。
美味しいモノ好き、サラリーマン。
…………うるさい。
「一人で食べに行けば……」
思っていた事が、口からこぼれ出た。
「違うでしょ!一緒に食べるのがいいんでしょ。何でそんな冷たい事言うのよぅ。行こうよ、行こうよぅ、鰻を食べに」
ハイハイハイ、分かった分かった。
一昔前に流行った貝社員みたいな返事を返す。
毎年、まっさんは土用の丑の日に鰻を食べに連れ出してくれる。
食欲が落ちる夏の時期に、少しでも美味しいものを食べよう、と言う優しい想い。
実際、まっさんチョイスのお店はどこも美味しいし。
ジワジワジワジワ
シュウウゥゥゥ
ジュウジュウジュウ
タレを絡めて炭火で焼く音は、耳に心地良いサウンド。
肉厚のふっくらした鰻が汁に浸かり、美しい茶色い光沢を放つ。
炭火で焼ける鰻、微かな火の粉が散る。
パチパチと、炙られる音。
僅かにつく焦げ目。
脂ののった皮目が、墨でじっくり炙られて、小さく微かに爆ぜる。
ふっくら柔らかく、炙られて香ばししい白身。
照り照りの身に箸を入れ、タレのしみた白米といただく。
口中でほぐれる鰻。染み出る脂の旨味と甘辛いタレ味ごはん。
行ったお店の素晴らしい鰻を思い出していたら、食べたくなってきた。
そう言えば、職場の友人も鰻が食べたいと言っていたっけ。
鰻、好きな人多いんだなぁ。
まっさんと外食するのもいいけれど、こんな暑い日はやっぱりお家ごはん。
土用の丑の日って年に何回かあるんですよね。
夏の土用のイメージが強いけど。
土用の期間は、土公神と言う土の神様が土の中を支配すると言われていて、土いじり、草むしりなどの園芸作業や増改築など土地に関することをしてはいけないのだそう。
季節の変わり目、体調を崩しやすいからやってはいけないことや、鰻で栄養をつけて過ごして来たのでしょうね。
さてさて。鰻、食べたい欲。
スーパーに行って、真空パックの鰻をチョイス。
それでもお高い気がするけど。奮発。
パックを開けたら、ひとまず洗う。
お皿に開けて、ペットボトルのお茶を少しふりかけてレンチン。
こうすると臭みが抜けて、鰻がふんわりします。
薄く切ったキュウリを出汁酢に和えて。
レンチンしてからオーブンで軽く炙った鰻を出汁酢にさっと絡ませえキュウリに添える。
その上に針生姜と茗荷。
夏の暑い日でもさっぱり食べられる、うざく。
こんな美味しいお料理を考えるなんて、古の日本人って凄いね。
「ちゃんとご飯、食べてるの〜?」
その日の夜、電話をかけてきたまっさんに伝えた。
「うん、鰻、食べたよ」
「あんた、ちょっと! 土用の鰻って、もしや土曜の鰻と思ってないでしょうね。明日だよ、明日!」
固いこと言わない。
食べたい時が旨い時。
「そして、何一人で食べてるの! 悔し〜い!」
突然悔しがるまっさん。
ほんと、忙しい人。
鰻はスーパーの出来合いで、しかもうな重じゃなくて、うざく。
「問題はそこじゃないの。あんたが一人で鰻食べた事が悔しいの」
訳が分からん。
「まっさんが一人でお寿司食べてる時もあるじゃん」
「僕も土用に鰻食べるもーん」
何やら分からん、ライバル視された。
まぁ、まっさん、暑さが和らいだら食べに行こうね。
本日土用の丑の日。
まっさんから連絡があった。
「あんかけ焼きそば、食べたよー(*^^*)」
…………。
食べたい物を、食べたい時に食べるのが、よろし。
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