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変わりたい
その日、俺は自己嫌悪に陥っていた。
「何で俺みたいなのが転生しちまったんだ……」
この世から消えるべきなのは俺の方だった。きっと、高嶺裕太が岡島運命に転生したら、どんなにスペックが低かろうが、努力して、人生を好転させていただろう。
そんなことを考えながら歩いていると、目の前で女の人が襲われている声がした。
「ちょっとくらい良いじゃん、触らせてよ」
「やめて下さい!」
4人の男に絡まれている女子高生がいた。
――無視だな…… いや、一応やばそうなら警察に連絡するか……? 面倒だなぁ
そう思って周りを見渡すが、だいたいの人がスルーしている。女の子は胸を揉まれ始めた。ん?あれは……うちの制服……いや、あの子は!
近づいてみると、遥ちゃんだった。
――すぐ警察に連絡を……
「おい、そこのお前」
バレた……。心臓がドクンドクンと鳴っている。足が震える。もうダメだ、逃げられない……。
その時、俺が本来の高嶺裕太であったなら、その抜群の運動神経を活かして、一度距離を取ってから警察に連絡するなり、周りの人に助けを求めるなり、あるいは一人か二人くらいなら殴り倒せた……のかもしれなかった。
だが、俺は結局のところ岡島運命だ。自分の運動神経がゴミであることを30数年間の経験値で刻み込まれている。出来ない言い訳を探し続けているだけの……自分の運命を呪い続けるだけの……
―― 嫌だ……! 俺は変わりたい……! 変わりたい!!
向かって来た男に先制攻撃を仕掛ける。殴りかかろうとした。あんなに怯えてたのに、前世の頃より身体が軽い。力とスピードを感じる。いける!
グサッ!
俺の拳はアッサリとかわされ、ナイフで腹部を突き刺された。
「ヴヴヴゥゥアァァア!!」
死ぬほど痛い。でも、変わりたい。ただそれだけだった。
ナイフが腹に刺さったまま、もう一度殴りかかる。当然当たらない。だが、もう一度、もう一度、何度でも……!
刺されてもなお、立ち続けて抵抗をやめない男を、気味の悪い化物と思ったのか、あるいはその場に居続けるとマズいと思ったのか、不良たちは立ち去った。
「裕太くん!」
遥ちゃんが駆け寄って来た。そこからの記憶はなかった。
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