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フォロワーとの打ち合わせ
さすがに一人でオンラインサロンを立ち上げて取り仕切るのには不安を感じた。やったこともないし、今までそんなことをしようと考えたこともなかったのだ。そこで、ツイッターで一番仲良くなっていた「mii@サレ妻」こと美雪に協力を持ちかけた。
『それ最高じゃない。やろうやろう!』
と彼女も大乗り気だった。私は埼玉、彼女は都内に住んでいてこれまで顔を合わせたことがなかった。だけど、この企画を提案したら彼女が今度の休みに会おうと言い出した。
私はドキドキしながら、娘を連れて彼女との待ち合わせ場所に向かった。
「sanyさん――じゃなくて沙奈さんだったわね。はじめまして!」
美雪はウェーブがかった黒いボブヘアの美人だった。指先はピンクベージュのネイルでつやつやしているし、50代前半と聞いたのにシミもシワもあまり無く、ハリのある肌をしている。コンビカラーの革サンダルに、モノトーンのワンピース姿で涼しげだ。こんな人が夫に浮気されてSNSで怒りをぶちまけていたなんて不思議に思えた。
私はまだ幼い娘が汚れた手で抱きついてくるし、抱っこすれば靴で服が汚れるからと最近安物ばかり着るようになっていたのがなんだか恥ずかしくなった。もう何ヶ月もトリートメントすらしていないパサついた髪の毛を無意識のうちになでつける。
(やっぱり、会う前に美容院行っておけばよかった……)
二歳の娘を連れているので、テラス席で食事のできるエスニック料理店を予約していた。多少子どもがぐずっても迷惑がかからないので、子連れにも人気のお店だった。
美雪には子どもはいないが、甥っ子がいるといって萌絵にも優しく接してくれる。私が萌絵に食べさせるのに苦労していると、彼女はさっと食事を終えて萌絵を抱っこしてくれた。
「すいません、助かります」
「ううん、全然。ほら、沙奈さんも食べちゃって」
「ありがとうございます」
「ねえ、敬語やめてよ~。ツイッターみたく気軽にタメ口でいいから。私も沙奈って呼ぶわ。いい?」
そして食事を終えた後、ハーブティーを飲みながらサロンの打ち合わせをした。大体のことは既存のプラットフォームで下準備がしてあり、彼女に確認してもらうだけにはなっていた。ウェブ上のページなどを見てガイドラインや規約等も確認してもらった。彼女が頷きながら言う。
「うん、いいんじゃないこれ! すごいわ、ちゃんと考えられてて。始める前からワクワクしちゃう」
「だよね。最近は夫へのイライラとかむしゃくしゃした気持がこっちに集中してたら気にならなくなって」
「わかる~! 私も今日沙奈に会えると思ったらここ一週間くらいは夫のことで全然イライラしなかった」
彼女との時間はあっという間だった。
「それじゃあ、今夜にでも告知スタートするね。夜に連絡するよ」
「ええ、楽しみにしてるわね」
「今日は本当にありがとう」
「こちらこそ、私も沙奈と萌絵ちゃんに会えてよかったわ」
美雪はこの後は別の友人と会うと言って去っていった。
夫には今日は学生時代の友人に会うと言って出掛けていた。夫は日中私がいないのを良いことに「じゃあ俺も臨時の勉強会してくるかな」と言っていた。彼が何をしているかはなんとなくわかっている。だけど、今は別にそれで構わない。こちらにもやることがあるんだから。
私は「たまには夕飯も外で済ませてきたら?」とLINEで伝えた。すると彼は喜びもあらわに「そうする!」と返事してきた。
私は萌絵を早めに寝かしつけ、オンラインサロンの参加募集告知ページを公開した。
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