AI

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『AI』気づけばそれは世界中に溢れていた。  家中の家電はAIがコントロールし、最初の設定さえしてしまえば、あとは毎日自動で家事は行われる。  人は朝、AIに起こされてから、夜、AIに促されてベッドに入るまで、ひたすらゴロゴロしていても生活ができた。  そして、人はAIに囲まれ、ほとんど他人と接触を持たなくても生きていける。  調理ロボが料理したものを食べ、AIにコントロールされた仮想世界にどっぷりと浸かり、ただ、楽しみのために日々を過ごせた。  仕事はAIがやってることがほとんどで、職を持つ人も大抵はAIに指示する命令を考えるだけ。無論、農地だって、工場だって、それどころか流通もAIがフルコントロールしている。  AIがなければ楽しみはなく、トマト一つ手に入らないのだ。  もはやAIなしには、人生と文明が立ち行かなくなっていた。  私、ディアナ=リーは現状が不満だった。 「お皿をお下げしますね、ソユン様」  執事型アンドロイドのクラウが、食卓の上を片付けていく。 「クラウ。帰ってきたら宿題見て」  娘はナプキンを畳みながらどことなく上の空で言った。 「承知しました」 「ママー。ご飯食べ終わったから、遊びに行っていいでしょ?」  娘、ソユンはもう十二歳だ。マナーはちゃんと教えているつもりなのに。 「その前に、言う事があるでしょ?」  娘は一瞬戸惑い、直ぐに反応した。 「ごちそうさまでした」 「それだけ?」  だが、再度尋ねると今度はむッとした。 「クラウ。お皿下げてくれてありがとう。あとで宿題見るのもお願いね」  渋々言ったのだということはその表情だけでなく、次のセリフで分かった。 「ねぇ、ママ。クラウはAIで動くロボなのに、なんでお礼言わなきゃいけないの? 友達は誰もそんなのしないよって言ってる。ウチだけ変だよ」 「それは、あなたの尊厳に関わるからよ」  AIはただのプログラムに過ぎない? 感情も人格も……魂もないAIに礼儀を尽くす必要はない?  それは嘘だ。そして、その思考はAI頼みの人類にとって最も危険だと私は憂慮していた。
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