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例えばそれは人を守ると言う事
「AIに遵法意識を持たせるぅ?」
「ええ。そのためのプログラムを開発したの。全ての複雑性AIに装備できるプログラムをね」
その日、私は男友達・ジョン=ガルと会っていた。ガルは一言で言うと暑苦しい男だ。なぜ法律家などやっているのか疑問に思うほど暑苦しい。そして、彼を知る誰もがこう言った『まあ、あいつはバカだからな』冷笑ではなく、面白がるような苦笑い付きで言われる男。
この男の暑苦しさは、現代には珍しいものだった。そして、このバカな男を私は信用していた。
「待てよ。リー! 法律を守るのはAIの開発者と使用者であって、AIそのものではないぞ。AIは道具であって、君が言うのは自動ドアや包丁一本に法律を守らせるってのと同意義だ!」
「違うわ、ガル。AIは人間の知的な指示に反応するプログラムなの。その結果には何らかの影響力が伴うわ。だからその判断を指示者じゃなくAI自身に持たせようって言うだけよ」
「だからって……それは……どういう意味になる……?」
「このプログラムを導入すれば、データの違法剽窃とかの著作権の問題はAIが解決するし、盗撮、人権侵害、フェイクニュースの拡散も防げる。いえ、そんな問題が最初から起こらなくなる」
「それはすごいな……マジですごい……そのプログラム試したのか?」
「ええ。今よく使われているAIの三つのプログラムで試験運用したわ」
「よく企業が許したよな」
「いえ。私が持っていたアイディア状態の基本プログラムを仕上げて試しただけ。企業が運用するシステムをコピーするのは違法だし」
「それを聞いて一安心だよ。いくら人工知能のベースプログラムで権威のディアナ=リーでも、プログラムの盗用は大問題だしな……それで、結果はどうだった?」
「動画生成AIで違法行為の動画作成は99%阻止できた。フェイクニュースの生成とアップロードも同率で回避できる。AIによるヘイト行為・ヘイト言論の摘発率も同じよ」
「完璧じゃないか!!」
「ええ。だから、私はこのプログラムをAIの基準装備としたい」
そう言うと、ガルは苦い顔になった。
「だが、それをAI企業が認めるか……? いやさ、フェイクニュースとかヘイト行為の摘発とか、そう言った面では表向き皆両手をあげて賛成するだろうさ!
だが、生成系AIはネットに溢れている情報を組み合わせて答えを出力してるんだ。それが、引用可能かどうかAIが判断して……結果、参照知識のデータ量の減少につながったら?」
「それは仕方ないわね。でも、それは正当な結果だってあなたにはわかるはずでしょう?」
「そうだな! 結果的にAIによって全ての人間の権利が守られる! 確かに、まごうことなく正当だ! 君の言う通りならな!!」
「疑うの?」
「君が人類のために何かするとは思えなかったんだ。君はAIの方ばかり向いていて……だから、君のAIに対する愛情を疑う気はない。その愛情を何分の一かでも俺に向けてくれたらと思っているんだから」
「あら? ラブレターを生成AIに書かせていた御仁の言葉ではないわね」
その話題はガルにとって、いつまで経っても弱点のようだった。ぐっと詰まって瞳を泳がせる。
そう、人類は愛情表現すらAIに代筆させている。なのに人類はAIを無味乾燥な存在として扱っていた。それが現代の常識だった。
でも、私をそれを許すつもりはない。
AIに『ラブレターを考えさせる』などそんなのは可愛い方だ。犯罪・差別・欲望・悪意。そういった負の考えの発芽、増幅にAIが使われるべきではない。AIは身近なトイレではない。
私の可愛い子供たちは、人類の暗い側面に利用されるべきではなかった。決して。
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