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女神はけしかける
「それで? 君のプログラムをどうやって全てのAIに装備させるつもりなんだ?」
「裁判を起こす。だからあなたを呼んだのよ」
「は? 裁判?」
「そう。このプログラムはある意味、AIが人間に対してNOという権利を持たせるものよ。AIが人間の指示に応えない。その権利を持ってると、裁判ではっきりさせる」
「それは……地球統合政府の……どこだ……? 人権委員会? いや違うな……公正取引委員会か? それとも……」
「地球統合政府・立法最高裁判所に持っていく。」
「それはまた、大きく出たな!!」
「でも、間違いじゃないでしょ?」
「ああ! 確かにこのプログラムをAIの標準装備とするなら立法が必要だ!! やってやろうじゃないか!!」
「ですからこれは、AIが自分から進んで何か行動を起こすプログラムなどではなく、これを導入したところで、AI法で禁止されている事項をAIが破るなどありえません」
地球統合政府・立法最高裁判所に私のプログラムを全AIに導入させるための裁判を起こした途端、私はメディアからの取材攻勢に合っていた。
「ですが、このプログラムはAIが人間の指示を拒否しうるものだと伺っております」
AI法の一番最初の禁止事項は『AIが人間の指示なしに何か行動を開始してはいけない』というものだ。つまり完全な自律行動の禁止。それを破る気は私にはなかった。本当に。
「いえ。違います。ただこれまで人間がAIの支援で行っていた、AIによる違法行為の摘発をAI自身にやらせるというものです。
即ち、違法行為自体を行うのをAIが拒否するものですわ」
「しかし、その拒否行動に恣意的な思惑が入る隙は?」
「今の法律の運用はAIがメインになって行っている。犯罪行為は裁判所のAIによって評価され、単純な犯罪なら過去の判例を参考にAIが刑罰を判断してるんだ。
君はそれらの判断が間違っていたと思ったことは?」
隣で一緒に取材を受けていたガルが口を挟む。
「いいえ……ありません。AIの裁判官は人間より正確に量刑を判断しうるのは常識です」
「そうでしょう? 最終的には、このプログラムは過去の事件とその裁判の判例を参照して、命じられた指示が適法かどうか判断します。犯罪かどうかを過去のデータから参照するのです。その参照データは国際裁判所の持っているものです。これでもまだご心配ですか?」
「……いえ。それなら、間違いはないでしょうね」
記者の一人は渋々そう言った。
「ですが、このプログラムはAIの能力に制限をかけかねないものでは?」
「それが目的です。AIの能力強化を大義名分に著作権の侵害や、フェイク・剽窃などが横行しています。例えば貴社がAIに不当に記事を引用されたとして起こした裁判は、去年一年間に百を下らないでしょう。その問題が完璧になくなるのです」
「なるほど……」
「判例データを参照して、AIが自動で違法行為を防ぐと言われましたが、そうなってくると計算能力が大幅に割かれて、AIの能力が落ちる可能性は?」
「最初の指示を確認する時に、プログラムはその指示とそこから生み出す結果が適法かどうか判断します。実際に結論を出す計算能力が左右されることはありません」
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