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私は信じるから
「まあ。大したことやってくれたよな、リー。どこまで君の考えだったんだ?」
「徹頭徹尾思惑通りよ」
広い公園の木陰のベンチ。私とガルはプログラムが導入された後、初めて顔を合わせていた。
「そうか……そうだ! 一回も話したことなかった同僚が最近、顔を合わせると挨拶するようになったんだ」
「あなたも挨拶を返すんでしょ?」
「ああ。その後話が弾むこともあるし。それに、今まで顧客との面談も前振りなしで最初っから論点を提示するのも多かったんだけど、最近は挨拶とか雑談とかから入って、なんだか和やかに話せるようになったよ」
「よかったわね」
「それが君の狙いだったんだろ」
ガルの言葉には答えずふふッと笑っていると、公園を巡回するゴミ箱ロボットがやってきて、ゴミ箱を探していた幼い子に頭を差し出した。
「あい」
子供はゴミ箱の中にゴミをぽとんと落とした。
「はい。だけじゃないでしょ?」
その子のそばにいた女性が促す。
「あがりとー」
ゴミ箱ロボットは嬉しそうに目を光らせると、また別の場所に動いていった。
「俺たちはAIに対するように、人間にも対するようになってたんだな。AIには、挨拶も気遣いも何も要らなかったから、それが普通になってた。
そしてそれを人間相手にもやるようになってたんだ」
そう。ガルの言ったことは事実だ。人は自分の周りにAIしか置かなくなって、王様のように傍若無人に振る舞えると誤解していた。そして、その過信を人間相手にまで拡大していた。
結果、世界はギスギスし棘の多い場所になっていた。
でも、AIにも礼儀が必要なら? 人間は他人にもそれが必要だと思うのではないだろうか?
それが結局は、真にAIと共にあるということだ。
「リー。やっと人類総改革の端緒についたばかりだぞ」
「そうね。でも、世界をいい方向に変えることはできるわ、私が」
「昔から思っていたけど、君のその自信はどこから来るんだ?」
「私は信じてるいるのよ。AIを作り出した人類の理想と善良さというものをね」
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