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「これ」
志貴はリュックから本を取り出す。
「美味しいハーブティーの作り方かぁ。いいのかい? 売って」
「いいから売りたいんだ」
「そうかぁ」
銀一さんはあごひげをなでながら、何やら考え込む。
「だめ?」
「まあ、だめではないけどね、まだ志貴くんは高校生だから。お父さんかお母さんと一緒にまたおいで」
「じゃあ、いいや」
「ご両親に知られたくない本かい?」
どことなく冷やかすような目をして、銀一さんは口もとをゆるめる。
全部見透かしてるんだ、この人は。
そう思って、志貴はぽつりと告白した。
「小学生のときに好きな女の子がいて……。その子に美味しいハーブティーを淹れてあげようと思ったんだ。だけどもう、その子は引っ越して会えないから、この本は必要ないんだ」
「ほう、小学生のときか」
銀一さんはちょっと眉をあげた。きっと気づいただろう。相手は沙代子ちゃんじゃないかと。
「また会えるかもしれないよ?」
「会えないよ。お母さんがこっちにはもう来ないだろうって言ってたから」
「来ないと決まったわけじゃない」
「でも、いいんだ。マロウブルーが二度と同じ色にはならないように、俺は祖母と同じものが作れない」
志貴がぶっきらぼうに本を突き出すと、銀一さんは茶化すような笑みを消して、しっかりと本をつかんだ。
「この本はおじさんが預かっておこう。いつか、必要になったら取りに来なさい」
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