第五話 美味しいハーブティーの作り方

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「これ」  志貴はリュックから本を取り出す。 「美味しいハーブティーの作り方かぁ。いいのかい? 売って」 「いいから売りたいんだ」 「そうかぁ」  銀一さんはあごひげをなでながら、何やら考え込む。 「だめ?」 「まあ、だめではないけどね、まだ志貴くんは高校生だから。お父さんかお母さんと一緒にまたおいで」 「じゃあ、いいや」 「ご両親に知られたくない本かい?」  どことなく冷やかすような目をして、銀一さんは口もとをゆるめる。  全部見透かしてるんだ、この人は。  そう思って、志貴はぽつりと告白した。 「小学生のときに好きな女の子がいて……。その子に美味しいハーブティーを淹れてあげようと思ったんだ。だけどもう、その子は引っ越して会えないから、この本は必要ないんだ」 「ほう、小学生のときか」  銀一さんはちょっと眉をあげた。きっと気づいただろう。相手は沙代子ちゃんじゃないかと。 「また会えるかもしれないよ?」 「会えないよ。お母さんがこっちにはもう来ないだろうって言ってたから」 「来ないと決まったわけじゃない」 「でも、いいんだ。マロウブルーが二度と同じ色にはならないように、俺は祖母と同じものが作れない」  志貴がぶっきらぼうに本を突き出すと、銀一さんは茶化すような笑みを消して、しっかりと本をつかんだ。 「この本はおじさんが預かっておこう。いつか、必要になったら取りに来なさい」
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