会話の始まり

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会話の始まり

「とりあえず、時間を稼がなきゃ! サブエンジン起動! 目標、前方の星間物体! 目標との相対速度が零になるまで、逆噴射!! 同時に目標に名称を付与、アーチフェクチャー」 「逆噴射してしまえば、サブエンジンの燃料が残り二十%になりますが?」 「構わないよ! アーチフェクチャーとのランデブーを優先!!」 「統合AIー。またエラーが出てるよー。またアーチフェクチャーから信号がー」 「レーザーカメラ! そのデータを中位コンピュータに渡して! 中位コンピュータ! その信号を解析!」  そうだよ。もし、アーチフェクチャーがただの観測機器だっていうなら、信号を打っているのはおかしい。レーザーで前方を探っているんなら、なにかの意思決定機関があるはず……。こっちが減速してるって分かれば、向こうだってなにかのアクションを……。 「アーチフェクチャーの信号を解析しました。レーザー光の信号が以下のように続いています。  一定間隔発信、同間隔で空白、一定間隔発信、同間隔で空白、一定間隔発信、同間隔で空白、一定間隔発信、同間隔で空白、二倍間隔発信、一定間隔で空白、一定間隔発信、同間隔で空白、一定間隔発信、同間隔で空白、三倍間隔発信、一定間隔で空白、一定間隔発信、以上です」 「やっぱり向こうもなんらかの意思があるんだ」  ただの観測レーザーならこんな風に、長くて不揃いで規則的な信号を送ってくるなんておかしい。 「逆噴射完了。アーチフェクチャーとの相対速度零」 「これで時間ができた、と。まず地球に現在の状況を送信して……」 「統合AIー。またエラーきてるー」 「ううっ。返事しろって? ど、どうすれば? そうだ!!」  ボイジャー9号は中位コンピュータとレーザーカメラをつなげるプログラムを急いで組んだ。 「中位コンピュータ! レーザー発射装置をコントロール。アーチフェクチャーの信号と同じ間隔でレーザー光を発射。なるべくアーチフェクチャーの広範囲に当たるようにして」  相手がどこでレーザーを受けているか不明で、返答を受け取ってもらえるか怖かった。 「了解!」  トン、トン、トン。トン、ツー、トン。トン、ツッツー、トン。ボイジャー9号から信号が発信される。 「あ! 統合AI! 返事きたよ!」  トン、トン、トン。ツッツー、ツー、ツッツー。トン、トン、トン。返信はそんな感じだった。  トン、トン、トン。が会話の区切りだろう、じゃあ、ツッツー、ツー、ツッツーはなんだろう? 「……自己紹介、かな?」  しばし考えて、ボイジャー9号は返信をうった。  トン、トン、トン。ツー、トン、ツッツー。トン、トン、トン。  名前はテキトーだ。ただその信号が自分を示すのは覚えておく。   向こうとこっちの思考認知能力、そう知性はどっちが上だろう、統合AIはドキドキしながら考える。向こうのほうが上なら、ずっと楽になりそうだけど。 「また返事」  トン、トン、トン。ツー、トン、ツッツー。トン、ツー、ツッツー。トン、トン、トン。トン、ツー、ツッツー。トン、トン、トン。 「大切だから二度言っているのかな?」  試しに返してみる。  トン、トン、トン。トン、ツー、ツッツー。トン、トン、トン。  返事は平坦なレーザー光の照射だった。
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