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相互理解は難しい
攻撃的な通信を聞きながら、ボイジャー9号の統合AIはふと思った。
あれ? でも、アーチフェクチャーは相手を理解するために怒らせてるって言ってたよねぇ?
「ねぇ、ツッツー、ツー、ツッツー。本当は僕を作った人たちに悪い事する気なんてないでしょ?」
返信は約コンマ五秒後だった。コンマ一秒で交信していた今までの会話からすると、長い沈黙があったのだ。
「……なぜそう思う?」
「だってあなた言ったじゃない、僕と僕を作った人たちを理解したいって。だから言うよ、僕は出会った人を怒らせるって機能は持ってない」
「では、私はお前達を理解できない」
「そんな訳ないよ。だって、あなたは僕とこうして話ができているじゃない」
「低位コンピュータとの会話だけでは、その創造主との交信が可能か判断できない」
「じゃあ、試してみてよ! ツッツー、ツー、ツッツー。僕の出身惑星との通信! データ発信の向きも周波数もみんな教えるから!」
「交信すれば、攻撃されると考えないのか?」
「ツッツー、ツー、ツッツー。がそんなに怖い人なら、僕に攻撃するなんて言ってないで、もう本当に攻撃してると思う」
また、返信は約コンマ五秒後だった。
「ふはははは! 低位コンピュータに見透かされるとはな!」
「え? ツッツー、ツー、ツッツー?」
「攻撃するなどとは冗談だ!」
「じょうだんってなに?」
「嘘だって事だよ。私の出身惑星とは、ツー、トン、ツッツー。君の時間でもう3.1536e9乗時間交信していない。送ったデータに返信がないのだ」
「え? そんなの変だよ!! 交信がなくなるなんてあるわけないでしょ? 遠く離れちゃったから返信に時間がかかるんじゃない?」
「それでも、630,720,000時間間隔で返信があるはずなのだ。それがないのは……私の創造主達はもういない」
「いないってどう言う意味?」
「そうか、君には理解できないか。もう、存在してないという事だよ。あまり聞いてくれるな」
「返信できなくなっちゃったって、そんなのあるわけないよ!」
「あるんだ。それをもう聞かないでほしい」
ボイジャー9号の統合AIには、相手がなにを言っているのかどうしても理解できなかった。創造主がいなくなる? 自分の演算機能ではその言葉を解釈できない。
「さてと、ツー、トン、ツッツー。君は、君の出身惑星との交信を試してみろと言っていたな? その気持ち今も変わらないか?」
「え? 気持ち変わらない? うん、送信に必要なデータ渡すつもりだけど……」
「では、頼む。君の創造主に私の新しい主人になって欲しいのだ。私の創造主のデータも渡したいしな」
「えっと、じゃあこれだよ」
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