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二人ならきっと
一日半後、ボイジャー9号の定時時間から外れた交信と、それに続いた謎の通信に地球は大騒ぎになった。太陽系外知性体の遺留品、しかも地球よりももっと発達した生命のもの。
アーチフェクチャーが持っていた全てのデーターを渡し終わると、地球ではその二機の今後が激しく議論された。すなわち、二機とも地球に帰還されせるか、それとも、まだ銀河の中を旅させるか。特にサブエンジンの燃料が切れたボイジャー9号をどうするかが問題だった。アーチフェクチャーとのランデブーをしている今なら、アーチフェクチャーのレーザー光によってある程度なら方向を変え押し出す事ができる。ただ、アーチフェクチャーから離れれば、もう銀河の中を漂うしかできなくなる。AIを積んだ観測衛星をそんな死に体で運用していいものか、世界中の宇宙科学者が色々な意見をぶつけ合った。
そうして……。
「ボイジャー9号、あなたはどうしたい?」
九日後、地球から届いた三度目の返信にボイジャー9号は驚いた。
「え? 僕が決めていいの? Dr.リー?」
もう直ぐに返事が来る距離ではなかったからか、ボイジャー9号のメインプログラマーである、Dr.リーの言葉には続きがあった。
「アーチフェクチャーさんは地球の指示通りに目的地を決めると言っているわ。あと聞いていないのはあなたの意見だけ。
二人で地球に帰るか、そのまま一人で旅を続けるか、それともアーチフェクチャーさんと共に行くか、あなたの意思が一番重要だと地球のみんなは思ってる」
ボイジャー9号は、Dr.リーが送ってきたその文面を、理解できるようになるまで何度も何度も読み返した。
ー僕が決めていいんだー
十二度目にやっとその言葉が染み込んできて、ボイジャー9号はドキドキしてきた。でも、どうしたいかならもうすでに決まっている。
「Dr.リー」
だから、コンマ一秒後、ボイジャー9号は地球に向かって返事を打ち始めた。
「Dr.リー。僕は…僕の作られた使命を全うしたい! アーチフクチャーみたいな他の人ともっと出会いたいんだ! アーチフクチャーとはなしててそれがわかったよ。
だから、アーチフェクチャーと一緒に銀河の中を旅するよ!」
それに、アーチフクチャーと一緒に行けるなら、同じ方向を向いて、同じ目的の人と共に進むなら、それはきっと楽しい!
「そう、分かったわ。気をつけてね」
更に三日後、Dr.リーが送ってきた返信はちょっと笑っているようだった。
「ボイジャー9号。アーチフェクチャーとのドッキングを」
地球から来たコマンドにしてがって、ボイジャー9号は運用が終了した観測機器をぶら下げていたアームを、アーチフェクチャーに向かって伸ばした。すんなりとアーチフェクチャーの出っ張りに腕が届いて、ボイジャー9号はドッキング成功のコマンドを地球に返した。無理やりだがこうして、二機は一機として運用される事になったのだ。
「これからもよろしくね。ツッツー、ツー、ツッツー」
2機の感覚器官は全て進行方向か進行方向とは逆を向いている。二機は機体を触れ合わせながらも通信はできない状況になっていた。
それでもいいや。
ボイジャー9号の統合AIは思った。
もう自分の役目はほぼ終わっている。後はアーチフェクチャーからの通信が解析できるようになるまでの観測データの提供と、もし新しい地球外生命体の出会ったと時に地球の紹介をするぐらいしかない。
それでいい、もう一人じゃないんだから。
アーチフェクチャーが加速したのがジャイロスコープの変化で分かった。
うん。誰か新しい人に出会ったら起こしてね。
その変化を確かめて、ボイジャー9号の統合AIは眠りについた。
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