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「お名前は?」
エレベーターできれいな女性と二人きり。名前を聞かれて、ドキドキしたが、すぐに気づいた。
女性の目は俺を見ていない。女性が見ているのは俺の胸元。つまり。
「大福って言います。白くてよく伸びる猫だったので」
過去形なのは、今、俺が抱いているのはロボットの猫だからだ。
「そう、きっと、可愛かったんでしょうね」
女性は微笑みながら、自分が抱いた犬を撫でている。同じメーカーのロボットだ。
「お名前は?」
逆に聞き返した。
「ハヤトって言うんです」
その名前を聞いたとたん、変な声が出そうになったが、なんとか、押しとどめることができた。
このマンションでは有名な名前だ。野島隼人。
可愛い男の子だった。いい子だった。惜しい子を亡くした。母から何度、そんな話を聞いただろう。
ちょうど、エレベーターの扉が開いたのにホッとする。
「お先に」
頭を下げて、外に出た。扉が閉まる前、もう一度見ると、野島さんはぼんやりと微笑みながら、犬を撫で続けていた。
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