愛ペット

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 野島さんのところの一人息子、隼人君は幼稚園のミスで卵アレルギーがあるのにプリンを食べてしまい、亡くなった。  一時期は取材陣がこのマンションにまでやってきたりしたし、母がおしゃべり仲間から仕入れた話を全て教えてくれるから、その後、野島さんの奥さんが引きこもりになっているということは知っていた。  それが外に出ることができるようになったのなら、いいことかもしれない。でも、子どもと同じ名前をつけて、余計に辛くならないのだろうか。 「なあ、大福。どう思う?」  大福は小首をかしげる。生きていた頃とそっくり同じ動きだ。でも、本物の大福はこんなスマートじゃなかった。食い意地が張った太めの猫だった。  出会いは小学三年生の時。野良猫が子どもを産んで、近所のおばさんが飼い主を募集してた。俺は飼いたかったけど、おふくろの許可が出ないのはわかっていたから、我慢していた。  五匹いた赤ちゃん猫を毎日、見に行っていたんだけど、だんだん、もらわれていき、最後に残ったのが大福だった。  この愛ペットというロボットの売りはAIの学習を動画で行えることだ。自分のペットの動画で学習させれば、そっくりの動きをするということでペットロスの人に大人気になった。俺も飛びついた一人だ。  ただ、欠点はロボットボディが猫、犬、それぞれ一種類しかないこと。色は選べるが、猫はアメリカンショ―トヘアっぽいし、犬はチワワっぽい。  外観の改造を行なっているショップに頼んで、大福を元の姿そっくりにしてもらおうかと思う時がある。 「お前は今のままと大福らしいのとどっちがいい?」  尋ねると、大福はもう一度、小首をかしげた。
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