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エレベーターに乗るたびに野島さんに会うような気がする。野島さんだと気付いてから、俺は落ち着かない。
「今日は大福ちゃんはお留守番ですか?」
それなのに、話しかけられてしまう。
「ああ、外に出さないようにしているんです。この間は逃げ出したのを捕まえた帰りで」
「それは大変でしたね」
「いえ、GPSが内蔵されているから、捕まえるのは簡単でした。人を傷つけないように歯や爪が丸められているのも安心ですね」
俺は野島さんの抱いている犬をじっと見つめそうになって、目をそらした。
「隼人はエレベーターが好きなんですよ」
野島さんが犬の頭を撫でる。
「ねえ。隼人」
ワンッと鳴いて、犬が野島さんの手から抜け出した。四つ足で着地したが、すぐに二本足で立ち上がった。そのまま、二、三歩、足踏みした。人が着るような白いシャツと紺色の短パンを履いている。
「可愛いですね」
「ありがとうございます。この子はハイハイもあんよも早かったんですよ」
ハイハイ? あんよ? それって、お子さんの思い出話ですよね? まさか、これが自分の子どもだなんて思っていないですよね。
野島さんは幸せそうに微笑んでいる。
エレベーターの扉が開くのにまた、救われたような気持ちになった。
「ワィ、ワィ」
犬の鳴き声がバイバイに聞こえる。
隼人は二本足で立ったまま、俺に向かって前足を振った。
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