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それぞれの家で、僕らはAIロボットの真実を知った。
家族の亡骸を中心に、ボロボロと泣きながら。
「ケイ。AIロボットというのはな?
亡くなってしまった人の魂が乗り移る、仮の器なんだ。」
「…え?」
「誰もがロボットとして帰ってくる訳じゃない。
きっとなんらかしらの未練があって…、器を借りて帰ってきて…。
そして目的を達したら、魂が出ていって…。
そしてロボットは役目を終え、壊れるんだ。」
「そんな。…じゃあ、じゃあ彼女は!?」
「っ、……母さんだ。」
母さんは死後、たった数日でロボットとなり帰ってきたらしい。
まだ葬儀も終えていない帰還に父さんは本当に驚いたが、母さんしか知らない事を話されたり、料理を作られたりと、彼女の話を信じたんだとか。
そして彼女は自身の葬儀すら手伝い、こう告げたらしい。
『ケイ君が高校を卒業するまで。
それまででいい。どうしても傍に居たいの。』
これはAIロボットが必ず行わなければならない契約なんだそうだ。
『いつまで』という期限は各々決められるが、それを過ぎての滞在は決して許されない。
家族がそれを了承すると、数日後にはAIロボットを製作している会社から契約書が送られてくる。
それには明確な期日が記載されていて、AIロボットがどうやって造られたのかの経緯や、家族の魂が入っているという事実、メンテナンスの日取りや場所、更には家に来たロボットの『誕生の瞬間』の映像が入っているそうだ。
「誕生の瞬間…?」
「そうだ。」
父さんは鼻をすすりながら金庫を開け、一枚のディスクを持ってきた。
僕はまだ動揺が収まっていなかったが、画面に目を向けた。
もしこの不思議な話が本当ならば、絶対に目を背けてはならないと感じたからだ。
父さんが目を合わせてきて、僕はゆっくりと頷いた。
映像はとても機械的な、施設的な場所だった。
大量に並ぶAIは個体全てが特徴的で、背の大きいのから小さいの、少しやせ型だったり逆にぽっちゃり体型など、本当に様々な個体が見えた。
『あなたの名前は?、分かりますか?』
この映像を撮っているであろうスタッフの声がAIにそう訊ねた。
AIは喋り慣れないのかゆっくりと頷いたが、体は動かせないのか、かなりギシギシと歪に動いていた。
『わたし…は、家族を置いてきて…しまったの。』
『そうだったんですね?』
『お願い…この体を…貸して。』
『はい分かっています。大丈夫ですよ?』
彼女は掠れた声で家族について語り、時折涙を流す仕草をした。
だが涙を流す機能はAIにはなく、涙が伝う事は無かった。
『まだ3才になったばかりなの。』
『夫の仕事は本当に忙しいから、せめてちゃんとしたご飯を食べさせてあげたいの。』
『生き直したいんなんて思わない。
ただせめて、あの子が高校を卒業するまで、私が二人をサポートしたいの。』
『お願い。』
掠れた声とギシつくボディーで必死に訴える彼女の姿に、自然とケイの涙は溢れていった。
「お母…さん。」
「っ、…すまなかった!ケイ!」
「…え?」
父が突然上ずりだし、ケイは眉を寄せて背に手を添えた。
契約により、彼は彼女が本当の母親であるという事実を伏せなければならなかったらしい。
それはある種では、とても辛い事だったのだ。
「俺も戸惑っていた。
けれどいつの間にか、ゆっくりと心の整理が。」
「…うん。」
「お前にも今なら、母さんの気持ちが分かるだろう?」
ケイは涙を拭いながら口角を上げ頷いた。
彼女が自分に一番伝えたかったことなら、もう分かっている気がした。
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