女神降臨(改稿済)

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 柔らかな癖のある金色の長髪が、夕陽を弾いてキラキラと輝く。  声もなく砂の上に倒れる姿――ぼくの目には、その光景がまるでスローモーションのように見えた。  いつの間にか、小ぶりの片手剣がレヴィの胸を真っ直ぐに貫いているのに気づき、ぼくは震えた。 「シオウル、余計な真似を」  薄茶色の髪の女に向かって、大剣の男が苦い顔をする。  シオウルと呼ばれたその女は、男の言葉など聞こえないかのように冷たい眼差しで倒れたレヴィを見下ろしていた。  代わりに反応したのは、灰色の髪の魔術師だった。 「あぁら、あなたそれでも本当に護衛騎士なの?」  呆れたような声でそう言うと、魔術師はわざとらしく肩をすくめた。 「命を助けてもらったこともわからないなんてねぇ? その男の剣が折れていなかったら、折れた切っ先がその方向に飛ばなかったら――今頃倒されていたのはあなたの方よ」  レヴィは倒れたまま動かない。  流れ出た大量の血が、砂に吸い込まれてゆく。    何故?  どうして……?  いったい何が起こっているの――?    ぼくは激しく混乱した。  ほんの数分前まで、いつもと変わらない日常だったのに。  ガタガタと震えるぼくの足元に、ポタリと何かが落ちてきた。  水滴……?  いや、これは――血だ。 「ジル……? ジル!」  ぼくは取り乱し、涙交じりの声でそう叫んだ。  ジルの白く美しい右頬は切り裂かれ、真っ赤な血が流れ落ちている。  折れた剣は、ぼくらの後ろ数メートルの地面に突き刺さっていた。 「イゼリヤ様のご尊顔に傷をつけるなんて――」  魔術師が不快そうに声を上げた、その時だった。  空気が変容した。  未だかつて感じたことのない禍々しい気配に、ぼくは思わず保護者の服を掴んでいた手を放して後ずさった。 「ジ、ジル……?」  倒れたレヴィを見つめたまま動かないジルの漆黒の瞳が、底知れない闇の色に染まっていく。  強風が吹き抜け、長い黒髪が、魔鳥の翼のように広がり――。 「ア゛ア゛ア゛ァァァァア……!」  呻くような叫び声をあげ、ジルは頭を抱えて砂に膝をついた。  地面から立ち上る黒い瘴気が、彼の身体を包み込んでゆく。  その恐ろしい光景に、ぼくはただ震えながら立ち尽くすしかなかった。   「うぅ……、レヴィ……!」  震えるジルの青白い腕が、倒れて動かない親友に向けて伸ばされる。  太陽が沈んだ。  嵐のようにすさまじい強風が巻き起こり、視界は闇に覆われ何も見えなくなった。  バリバリと雷鳴のような音が鳴り響き、大地は揺れ、まるで世界が裂けてしまうような感覚に陥る。    これが、世界の終わりなのだろうか。  ぼくは絶望の中、そんなことを思った。  さっきまで、あんなに綺麗な虹を見ていたのに。  いつものように三人で晩御飯を食べて、優しく頭を撫でてもらいながら眠りに落ちて……そんな毎日が、これからもずっと続いていくと思っていたのに。  永遠に続くかと思われた暗黒の嵐はやがて過ぎ去り、次に恐ろしいほどの静寂が訪れた。  いつのまにか、空には大きな白銀の月が浮かんでいる。  その光を一身に浴びるかのように、ジルが立っていた。  純白の衣の背に、夜の闇よりも暗い漆黒の髪が流れている。  まるで月光の化身のように静謐な美しさ――。  その神々しさに、誰もが言葉を失ったように立ち尽くし、その場から一歩も動くことができなかった。  そして()()はゆっくりとぼくを振り返った。  ジルと同じその顔で――()()は、うっすらと微笑んだ。  その瞬間。    ぼくは、大切な人たちを、全て失ってしまったのだと悟った――。
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