序章(改稿済)

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序章(改稿済)

◇◆◇  宿屋『風の森亭(フウカ・ルガナ)』の屋上で、プランティートールは祈りを捧げていた。  ポニーテールに結った長い白金の髪が、暖かな風に()()()と揺れる。  昨夜、音もなく砂漠に落ちた赤い流星。  あれはきっと、何か特別なものだったに違いない。そう少女は感じていた。  ――これから起こること全てを受け入れなさい。君の運命は、常に太陽神(ヘルシーフ)と共にある。  今朝――いつものように街の小さな教会で、入り口の掃除を手伝いながらまだ明けきらぬ空に輝く星を見上げていた彼女に、老司祭は言った。  その言葉が、ずっと頭から離れない。  様子を見てくると砂漠へ旅立った父の無事を、少女は一心に祈った。  偉大なる創造主、太陽の神ヘルシーフよ。  どうか私たちを、この世界をお守りください――と。  ◇◇◇  小さな一本の枯れ木が、寂しげに揺れている。  風化寸前の砂漠の廃墟。  崩れ落ちた石壁と円柱は、古代文明の残骸であろうか。  何処から迷い込んだのか、枯れ枝に一羽の鳥が舞い降りた。  傷つき、ボロボロになった翼が空へ羽ばたくことは二度とあるまい。運命という嵐の前では、小さな命など枯れ葉のように翻弄され、灯火のように儚くかき消されてしまうものだ。  少年がそこに辿り着いたのは、昨晩のことだった。  崩れた壁の隙間に身を預けるように倒れこんだその少年の身なりは、とても酷い状態だった。薄汚れた緑のターバンから覗く髪は砂と共に固まり、本来の色もわからない。物取りにでも襲われたのか、荷物らしい荷物さえ無く、楽器(ウード)一つだけを背負っていた。  やがて真上に照りつけた太陽が僅かな日陰さえ奪い取り、あまりの眩しさに少年は目を開いた。  狂おしく照りつける太陽の光は、哀れな魂を天へと連れ去る死の天使の耀きだ。  少年は視界に延々と続く荒野を見やり目を細めた。周囲に人影は無く、どんなに目を凝らしてみても集落らしきものは何処にも見えない。  進め……!  何者かの声に操られるように、少年はゆっくり立ち上がった。  照りつける太陽を背に、ただ無慈悲な光溢れるだけの砂の上を、彼は一歩一歩進み始めた。  背後で、小鳥が音もなく落ちた。  その小さな骸も、やがて砂と化してゆくだろう――。
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