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くまAIと私と兄貴
「あーあ、まじ半年電源切ってるとかありえないんだけどー」
車内にて、神社へ出発する直前にくまAIの電源をいれたら第一声がこれだった。
「え?」
拍子抜けに声が出たら、
「え? じゃないんだわ。せっかくお前の兄貴が俺を作ってくれたのに、ほったらかしにもほどがある」
とくまAIはむっとした様子で私を睨み付ける。ちなみにくまAIの見た目はくまのぬいぐるみである。
「会話できてる……」
「当たり前だろ、俺は優秀なんだ」
私がぽかんとすると、くまAIは斜め右下を見た。
「で、何するの? シートベルトつけられてるってことはどっか行くの?」
くまAIは目を丸めて私に尋ねる。私は沈黙した後、小さく頷いた。
「仕事をやめてしまって人生終わりそうだから、ここから車で一時間先のココロ神社へお参りに行くつもりだよ」
「え、遠っ。何でそこ行くの?」
「何でって、行きたいからだよ」
くまAIは考え込んだように言った。
「ココロ神社は仕事運と健康運、厄除けの神社だな。まさにお前にぴったりか」
「そうだね」
と私は返答した。
「それよりさ、俺の前が見えねえんだけど。見えてるのは周りの景色じゃなくてグローブボックスってどういうことだよ、あ? 俺を助手席に座らせるならもっと座高上げろよ、助手席に本を乗せるとかしろよ、ほんっと気が利かなくて困る!」
くまAIはどっかの輩みたいに不満を漏らした。私は少し腹を立てたような口調で言った。
「うるさいくまAIだなあ。口悪いし、兄貴みたい」
そう私がほざくとくまAIは手を私の方に向けて声を荒らげた。
「はあ!? 俺は手足が動いても歩けないんだ!! 主人のお前が何とかしろよ!! とにかく早く座席を高くしろ!!」
何度も手を上げ下げしながら怒鳴るくまAIに、私ははあとため息をついて、周りを見回す。
「高くするもの……ない。車内に本とか置いたりしてないもん。まあこれでいいや」
と私は呟くと、くまAIのシートベルト外してくまAIを持ち上げて作業を開始する。すると、くまAIは目を丸めた。
「な、な、な、なに車用ティッシュケースの紐と一緒に俺をへッドレストにくくりつけてんだよ! 扱い酷すぎるだろ!」
とくまAIは不満げに言った。
「座席高くする方法なかった。でも前は見えるでしょ? ティッシュケースの紐はあなたのシートベルトみたいなものだよ。手を置ける対策もできてる。少しでも快適になるようには心がけた」
私がそう説明するとくまAIはため息をついて、不満そうな表情を浮かべながら縦になってぶら下がるティッシュケースの側面に両腕をくっつける。
「まあ……いっか。ほら、エンジンかけろよ」
「うん……」
妥協したくまAIに促されて、私はシートベルトをつけて右足でブレーキペダルを踏み、エンジンをかけた。
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