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車内は静寂に包まれていた。現在時刻は朝の七時半で車通りは少ない。
「音楽でもかけられたらいいな……」
するとくまAIはちらりと私を見たあと、口を開く。
「ららーらららーらっこららー、ららーらららーらっこららー」
「……何それ」
「月のらっこっこの散歩ソングだよ」
「……何それ?」
私が聞きなれない音楽に首をかしげると、くまAIは声を荒らげた。
「はあ? もしかして月のらっこっこを知らないのか? めちゃくちゃ有名ならっこのアクションゲームのBGMだよ!」
「ゆ、有名なの?」
くまAIはため息をつき、首を振った。
「これだから世間知らずの女子は困る! あんな面白くて有名なゲームを知らないなんて!! 」
「う、嘘。今度やる。BGM覚えるから歌って」
「いいよ。兄貴が歌うみたいに陽気に歌ってあげる」
くまAIの歌う月のらっこっこの「散歩ソング」は陽気に車内に響き渡る。メロディーが可愛らしく、私の心がほっこりする。しかし車の列が徐々に形成され始め、私は内心焦りを感じ始めた。
「ねえ、くまさん」
「俺に名前をつけろよ」
「今つけるね。ねえ……くまさん」
「それ名前だったのかよ、何だよ」
私はためらいながら口を開く。
「私ね、ペーパードライバーなんだ」
「……は?」
「五年前に免許とって以来、一度も運転せずにいて、一週間前にペーパードライバーを卒業したばかりで、今まで運転した回数は二桁もない。片手で数えられるよ」
すると、くまさんからはピーピーピーと警戒音が鳴り、くまさんはまた手を上下させる。
「ひぃっ! お前大丈夫なんだろうな!?」
「前に受けたペーパードライバー講習では大丈夫だと言われたよ?」
「でも二桁も運転してないんだろ?」
「うん」
くまさんはため息をついて、縦のティッシュケースの側面に顔を埋めた。
「やばい、今日は俺の命日か」
「そ、そんなこと言わないでよー。近くの神社に行くことになっちゃうじゃん!」
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