くまAIと私と兄貴

2/5
前へ
/7ページ
次へ
 車内は静寂に包まれていた。現在時刻は朝の七時半で車通りは少ない。 「音楽でもかけられたらいいな……」  するとくまAIはちらりと私を見たあと、口を開く。 「ららーらららーらっこららー、ららーらららーらっこららー」 「……何それ」 「月のらっこっこの散歩ソングだよ」 「……何それ?」  私が聞きなれない音楽に首をかしげると、くまAIは声を荒らげた。 「はあ? もしかして月のらっこっこを知らないのか? めちゃくちゃ有名ならっこのアクションゲームのBGMだよ!」 「ゆ、有名なの?」  くまAIはため息をつき、首を振った。 「これだから世間知らずの女子は困る! あんな面白くて有名なゲームを知らないなんて!! 」 「う、嘘。今度やる。BGM覚えるから歌って」 「いいよ。兄貴が歌うみたいに陽気に歌ってあげる」  くまAIの歌う月のらっこっこの「散歩ソング」は陽気に車内に響き渡る。メロディーが可愛らしく、私の心がほっこりする。しかし車の列が徐々に形成され始め、私は内心焦りを感じ始めた。 「ねえ、くまさん」 「俺に名前をつけろよ」 「今つけるね。ねえ……くまさん」 「それ名前だったのかよ、何だよ」  私はためらいながら口を開く。 「私ね、ペーパードライバーなんだ」 「……は?」 「五年前に免許とって以来、一度も運転せずにいて、一週間前にペーパードライバーを卒業したばかりで、今まで運転した回数は二桁もない。片手で数えられるよ」  すると、くまさんからはピーピーピーと警戒音が鳴り、くまさんはまた手を上下させる。 「ひぃっ! お前大丈夫なんだろうな!?」 「前に受けたペーパードライバー講習では大丈夫だと言われたよ?」 「でも二桁も運転してないんだろ?」 「うん」  くまさんはため息をついて、縦のティッシュケースの側面に顔を埋めた。 「やばい、今日は俺の命日か」 「そ、そんなこと言わないでよー。近くの神社に行くことになっちゃうじゃん!」
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加