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「近くの神社は嫌なの?」
くまさんが顔をあげて心配そうな顔をして尋ねる。私は眉を潜めた。
「ココロ神社がいいんだもん。この車にナビついてるけど、くまさん道案内してくれる?」
「しょうがない。まあ、行きたいんだもんな、挑戦しろ。俺がいるから大丈夫だ」
「うん」
私は頷き、くまさんのほうに耳を傾ける。
「次の信号を左だ」
「車線変更怖すぎ」
「今、今入れる。真ん中から左車線へ」
「無理無理」
私は首を振りながら言った。くまさんはバックミラーやサイドミラーや後方を確認していた。
「入れる入れる、今、今、今!」
「無理無理無理、ひいいいっ」
私は車線変更せずに信号を直進した。
「おい、なに通りすぎてんだよ!」
「だって……ごめん」
情けなさと共に少し落ち込んだ気持ちでまっすぐ走ると、くまさんは頷きながら口を開いた。
「別にいいよ、安全を確保して、周りを気にせずに自分のペースで走れ。次の信号で左に曲がるんだ。次の車線変更も頑張れ」
「私ってさ……何やってもだめなのかな?」
私がため息をつくと、くまさんは少し沈黙してから口を開く。
「そう思うくらい、過去に嫌なことがあったのか?」
「え」
「話してみろよ」
くまさんの力強い声に、私は戸惑いながらも運転しながら口を開く。
「前職は営業の仕事だったんだけど、成績が伸びないってずっと叱られてたんだ。分からないところを聞きに行ったら、自分で考えることもできないのかと怒られた。私なりにね、本を買って勉強したりしたの。でもやっぱり成績が上がらなくて。周りの人たちも冷たい目線で見てきて」
「うん」
「結局仕事もやめて……私が悪いんだよね」
心がずきずきと痛み、口の悪いくまさんに何を言われるか不安だった。でも、
「誰だって分からないことはあるだろ。それを人に分かってもらえないってことは辛いことだな。仕事を辞めたのは残念だけど、でもお前は仕事を頑張るために勉強して周りに馴染もうと努力したんだろ? それは悪いことじゃない。お前はよくやってる」
そう言ってくれたくまさんの言葉に、心からの安堵が込み上げてきた。
『よくやってる』という言葉は私が求めていた声だった。その言葉に胸がいっぱいになる。くまさんは私を見てぎょっとした。
「待て、運転中に泣くなよ?」
ドキドキするように見えたくまさんを横目に、私は微笑みながら、車のハンドルをしっかりと握った。
「分かってる」
「次、左な」
「分かってるよ」
私は心の中で思った。
あなたがいてくれて、本当に良かった。
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