最後の桜

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最後の桜

昭之助は正式に桜姫と隣国に行くことを 断った。しかしそれについて、 殿をはじめ城の者は 何も言わなかった。 姫のお輿入れの準備が着々と進められる。 時折、姫は生まれ育ったこの国を 目に焼きつけておくために 城外に出向き色んなものを 見て回る。 昭之助もその度に姫の護衛のために 帯同する。 籠がおろされ、中から姫が外に出ると 姫は青空を見上げ、 「やはり、この土地はよいのう。  風が吹いて、花が咲き乱れ、  作物が実り豊かな土地じゃ」 「さようにございますね」と昭之助が答える。 姫が昭之助を見ると、 「昭之助……暫く歩かぬか?」と言うと 昭之助を誘い緑茂る場所に歩いて行った。 「気持ち良い風じゃ……」と姫は頬に あたる風を楽しむ。 昭之助も野に吹く風を感じていた。 「昭之助……わらわは、もうすぐ  隣国へ輿入れする。  最後にそなたと二人で  また、あの桜を見たい」 姫が昭之助の顔を見つめる。 「まったく、姫は最後まで」 と微笑む昭之助。 「わらわの最後の望みじゃ、  そなたと一緒にあの桜を見たいのじゃ」 「わかりました。明日の夜、  お迎えにあがります」と昭之助が呟いた。
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