桜……あなたを想う

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桜……あなたを想う

星空の下、 大きな満開の桜の木を見上げる 昭之助と桜姫。 「これからは、桜を見る度に  切なくなるのじゃな」  とあなたが言う。 「こんなに綺麗に花を咲かせるているのに  何故でございますか?」と私が聞いた。  儚げな顔で桜の木を見上げるあなた。   「そなたと桜を見るのはこれが最後じゃ。  昭之助……」  とあなたが言う。    あなたの言葉を聞いた私。  季節は暖かい……はずなのに、  私の心は真冬のように冷たかった。 時が過ぎ、 その日、空は一点の曇りもない 青く、暖かい陽射しが心地よい。 桜姫の輿入れの日、 綺麗な着物を身にまとう姿。 「姫、お綺麗でございます」  と昭之助が呟く。 侍女が姫のお手を引こうとすると、 「昭之助、わらわを籠まで」と言われた。  昭之助は頷くと姫のお手を引き歩き出す。    石畳を歩くあなた……  あなたの手を引き迎えの籠にお連れする。  「桜を見たら、思い出してほしい   伴に過ごした日々を」  凛とした表情で籠に乗り込むあなた。   「姫、お幸せに……」 私は声を振り絞る。   「ありがとう……」 これが私があなたと城で交わした最後の会話。  
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