時が過ぎても変わらぬ二人

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時が過ぎても変わらぬ二人

城に仕える女たちが 桜姫と昭之助の姿を見て口々に言う。 「まっこと、お美しい姫君じゃ。  そして、お傍にお仕えする昭之助様も  凛々しゅうてお美しい」 渡り廊下を歩く桜姫、その後を歩く昭之助、 あどけなく、愛くるしい笑顔の似合う桜姫は、 まるで『桜の化身』ではないかと言われる程に 美しく成長し、十六歳になっていた。 そして、愛之助も十六歳で元服を済ませると、 剣術に磨きをかけ始めると同時に 『男』としてたくましく成長し、 武士としての初陣も済ませると戦場にも 出陣し始めた。 十九歳を迎える頃には、 殿の家臣団に加わると、持ち前の剣術で 殿や姫の護衛を務める重要な お役目についていた。 「昭之助、昭之助」口を尖らす姫。 「だから、何度も申しておるではないですか!  だめなものは、だめなのです」 「どうしてじゃ?」  と昭之助の後ろを追いかける桜姫。 「危のうございます」 「昭之助がおるではないか。それに平蔵も」 「だから、だめなのです。こんなことが  殿や他の者に知れたら、私は、いや、我が家  はこの国から追放されまする」 「そんなことはない。ただ少しの間、  桜を見にいくだけではないか」 「桜の木は城内にも立派なものがございます」 「そうであるが……わらわは、城から見える  外の世界の桜を見たいのじゃ。  以前、父上と一緒に神社参りに行った時に  見たあの大きな桜の木が見たいのじゃ。  昭之助、そなたも見たであろう?あの木を。  観たいのじゃ。見事な桜を……」 困り果てた昭之助は溜息をつくと、 「わかりました。籠をご準備致します」 と言った。  すると姫は、 「籠? 何を申しておる。  籠など準備しなくてもよい」と言った。 「は?城から、あの桜の木までは遠すぎます」 「馬じゃ、昭之助、馬で行く」 「馬ですか? しかし、姫お一人で馬に  乗られるのは厩舎の者に知られてしまう」 「だから、昭之助、そなたの馬でわらわを  連れて行け。そなたの前にわらわを  乗せて行けば問題なかろう」  と姫が笑った。 「え?私の馬に姫様をお乗せするのですか?」 「そうじゃ、昭之助は幼き頃より  わらわの願いをいつでも聞いてくれた ではないか」 と姫様が言った。 「はぁ、承知しました」と姫に押される昭之助 「大丈夫じゃ。侍女たちにも手は回してある  昭之助、明後日桜を見に参るぞ」  と桜姫が笑った。
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