お忍びで見る『桜』

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お忍びで見る『桜』

馬の手綱を引く昭之助。 厩舎の者から、 「大木様、  何処かへお出掛けなさるのですか?」 と聞かれると、 「国境まで」と一言呟く。 馬を連れ、厩舎から離れると 数人の侍女と姫が待つ場所へ急ぐ。 門番の役人と侍女が話している間に 昭之助は、馬にまたがり、 桜姫を引き上げると自分の前に 座らせた。 観念した様子の昭之助は 「姫、行きますぞ」と言うと 力強く手綱を引きあげ馬を走らせた。 城から勢いよく走り出した馬に またがる昭之助と桜姫。 風を頬に受ける姫、 「昭之助、  城があんなに小さく見える」 と言った。 「姫、振り落とされないように  私にしっかりつかまっていてください」 と昭之助は言うと、一気にあぜ道を駆け抜けた。 暫くすると、神社の鳥居が見え、 道沿いに馬を走らせると大きな一本の 桜の木が見えた。 昭之助は走るのを止めると 馬から姫を抱きかかえるように降ろす。 「姫・・桜でございます」 桜姫が馬から下りると、大きな桜の木を 見上げた。 大地にどっしりと根をはる桜の木は まさに今、薄桃色の花を満開に咲かせていた。 「綺麗じゃ、綺麗じゃのう。昭之助」 「さようにございますね。綺麗だ……」 二人は満開の桜を見上げる。 桜姫が昭之助の顔を見上げると 優しく微笑む。 「昭之助と一緒に見る桜、よいのう」 姫の言葉に顔を横に背ける昭之助。 「どうしたのじゃ?」と姫が声をかける。 「いや、何でもございません  それより、姫、喉が渇きませんか?」  と言うと昭之助は腰に下げていた。  竹筒に入った水を姫に差し出した。  すると、姫も腰に巻いていた風呂敷包み  を開くと、そこから饅頭を取り出し  昭之助に差し出した。 桜の木の下に座ると饅頭を 美味しそうに食べる二人。 幼き頃からいつも一緒の昭之助と桜姫。 互いの目を見つめ合うと優しく微笑む。 風が吹くと、満開の桜の木からは、 花びらがひらひらと舞い落ちる。 二人が上を見上げると、桜の花びらが 互いの頭に舞い落ちた。 そっと手を伸ばし、昭之助についた 花びらを取る桜姫、 昭之助も姫の黒髪についた花びらを 優しく取る。 そして、また二人は見つめ合うと 優しく微笑んだ。
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