お忍びで見る『桜』

2/2
前へ
/13ページ
次へ
二人並んで桜を見る昭之助と桜姫、 昭之助が姫に聞いた。 「姫、その手首のあざはお怪我ですか?」 姫の左手首には小さな『あざ』がある。 昭之助はそのあざがずっと気になっていた。 桜姫はそのあざの部分を右手で押さえると 言った。 「これは、怪我ではない。  我が家は代々、手首に 『桜の形をしたあざ』をもつ 女子(おなご)が生まれてくる ことがあるそうじゃ」 「そうでしたか」と呟く昭之助。 「昭之助、夕暮れまでに城に戻らねば  ならぬな」と姫が言った。   昭之助も頷くと、 「そうですね。そろそろ戻りましょうか」 と言った。 馬にまたがる昭之助は、桜姫を自分の 前に座らせた。 姫が昭之助を見ると 「昭之助、来年の桜も、  そなたと一緒に見に参ろうぞ」 と微笑んだ。 「姫 心得ました」昭之助も微笑むと 「しっかり私を握りしめていてくださいませ」 と言うと、馬を走らせた。 昭之助を握りしめ、胸元に頬を当て 目を閉じる桜姫…… 昭之助は無言で馬を走らせる。 城の前では侍女たちが二人の帰りを 待っていた。 二人の姿を見た侍女たちは 安堵の表情を浮かべるので あった。 桜姫は思い出す。 昭之助の広い胸元から聞こえた 力強い『心の臓』の音。 昭之助は思い出す。 桜姫が自分の胸に当てた頬の感触、 そして、黒髪からほのかに香る、 甘い匂いを……。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加