理由を申せ

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理由を申せ

夜、昭之助の屋敷の前に籠が到着した。 昭之助は自分の部屋で書物に目を通していた。 バタ バタ バタと廊下を走る音がした。 足音が昭之助の部屋の前でピタッと止まった。 昭之助が不思議に思った瞬間、 両方の障子が勢いよく開いた。 「姫……」驚き声を上げる昭之助 目の前に桜姫が立ってた。 姫は語気を荒げて 「昭之助!何でじゃ?何でわらわと一緒に  隣国へ行ってくれないのじゃ?何でじゃ?  理由を申せ!」と昭之助に詰め寄った。 昭之助は興奮する姫の両手首を握ると 冷静な顔で言った。 「姫様はもう私がお傍にいなくても  大丈夫です。私のお役目はもう  終わりました」 その言葉を聞いた桜姫は、 「どうしてじゃ?  わらわのことが嫌いになったのか?  それとも、好いた女子(おなご)が  おるのか?  添い遂げたい女子がおるのか?」 昭之助は首を横に振ると、 「姫を嫌いになるなんて、  そんなこと神仏に誓ってもありません。  好いた女子もおりません。  私は、ただ、姫が隣国の殿の元へ  お輿入れされそのお方と姫の  仲睦まじい姿を見るのがつらいのです。  私が姫をお慕い申しあげても  私と姫は身分が違い過ぎます。  あなたと私は決して結ばれぬ、  そういう定め(運命)なのです」 昭之助が下を向いた。 昭之助の姿を見た姫は悲しそうな表情で 「そうか……わかった」と呟き 姫は屋敷から出ると城に戻って行った。
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