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あれから2時間半ほど経って、1次会がお開きになる頃。みんな程よく酔いが回り雰囲気も高揚していた。会計を済ませ皆で外へ出ると、2次会へ行く組と帰宅組で自然と立ち位置が別れる。
僕はというと、あまり酔えなくて意識は割とハッキリしていた。特にグイグイ絡んで誘ってくるような子がいなかったから、純粋に楽しめはしたけど。
女子に捕まっている俊太に帰ることだけ伝えよう。
「俊太、僕はここで帰るね」
「お、分かった!今日はありがとな!ちょっとは気紛れた?」
「あー…うん。紛れたよ、ありがと」
今日は振られた傷心を紛らわすために賑やかな場に来たつもりだったが…何となく、楽しいよりは違う意味で紛れたような気がした。こんな日に、佐々木くんと再会するとはどんな偶然だろうか…。
「えー、叶羽くん帰っちゃうのー?」
「うん。今日はありがとね」
「そっかぁ。まあでもLINEグループ作ったし、また一緒に飲もうねー!」
「うん、また飲もうね」
女の子にも男の子にも惜しまれつつ周りを見渡すと、佐々木君も他の人達に小さく手を振っているのが見える。佐々木君も、もう帰るのか。
帰宅組と二次会組が解散する時、佐々木君の隣へ小走りで駆け寄った。
「あ、佐々木くんも二次会行かない人?」
何となく隣を確保して、歩きながら自然に話しかけたつもりだ。
「え?あ、うん。そんなにお酒飲めないし」
「そっかそっかー」
なぜだか、少し気まずさを感じる。いや僕だけ感じてるのか?と思うほど、佐々木くんの表情は変わらないし時折空を見上げてぽつぽつと歩いている。
なんで、佐々木くんに話しかけてしまったんだろう。これでお開きだし、「同級生に会えて懐かしかった」と帰ればよかっただけなのに。
それだけでは足りないと、僕の今まで思い出さないようにしていた記憶がぶり返して暴れているようだ。きっと駅に向かってるだろうから、それまでの間だけ…。
「ねぇ、原崎くんは俺と同じ高校だったんだよね?」
「うん、そうだよ」
「話したことないんだよね?やっぱり思い出せないから」
「しっかり話したことはないよ。顔は見たことあるかなーくらいだと思う」
隣からじっと僕を見つめる佐々木くんは、僕より少し背が低いけど、同じくらいだからきっと身長は175くらいだろう。
それに、白い肌に真っ黒な髪の毛、いくつか開けてるピアス。くっきりした目鼻立ち。高校の時の憂いさを帯びる面影はあるものの、だいぶ洗練されていて綺麗に成長したように感じる。
「なのに、原崎くんは俺を覚えてたの?」
「え…、うん」
「そっか。記憶力いいんだね」
記憶力というか、あの時の君が印象強くて忘れていなかっただけだ。あの日をきっかけに、僕の世界は変わったから…変わったというか、気付かせてくれたのかもしれないが。
でも佐々木くんは全く僕を知らないようだし興味が無さそう、別にそれでいい。
僕も久しぶりに会えたから、あの時見た顔をもう一度見て、少し話したいと思っただけ…。
「原崎くんは彼女いる?」
「えっ」
そう考えていた時だ。予想もしなかった佐々木くんからの問いかけに、咳き込みそうになった。僕に興味がある素振りはなかったし、まさか恋人の有無を聞かれるなんて思わなかったから。
「…彼女っていうか、恋人はいないよ。実は今日付き合ってた人に振られちゃって」
「あ、そうなの?」
「うん、それで僕が落ち込んでたから、友達が気紛らわさないかって今日の飲み会に誘ってくれたんだ」
「じゃあ、今居ないんだ」
興味を持ってるのか持ってないのか分からないな。
「う、うん…今はフリーだけど」
「じゃあ、今からここから近くのホテル行くけど一緒に行く?」
「……は?」
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