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なんだか無性に気になってしまう。佐々木君に聞いてみてもいいのかな。でも聞いたところで、積もる話もないのにそこからどうするつもりだ。
そもそも、あんまり他の人と仲良くしようとしたら…僕には彼氏がいるんだから…
「あ、そっか」
って、僕昨日振られたんだった。
本当に感情の起伏が激しいな。昨日の夜は虚しさを感じる隙もなく乗り越えたが、失恋の痛さってふとした時にこうやって思い出すんだよな。
「叶羽~、昼飯行こ…ってどうした」
「…ちょっと色々と情緒が」
「あーはいはい、学食行こー」
午前があっという間だった。授業が終わった昼。正直あまり空腹ではないけど俊太に連れられて学食へと向かう。
でも振られたことは思い出して落ち込んでても仕方がないことは分かってる。彼氏とはもう終わって、どうにもできないし。分かってるけど、昨日から情緒がグラグラなんだって。
そんな僕を見て、俊太は肩に腕を回してきた。
「叶羽さー、とっとと新しい恋人でも作ったら?良さげな人探してみるとか」
「いや…でもその場しのぎは嫌なんだよ…」
「男の傷を癒すには男って言うじゃん」
「そっそうかもだけど…僕は好きな人とずっと一緒にいるっていう幸せを掴みたいんだ!」
「…お前、可愛いな」
「ちょ、ムリムリ、無理です」
「何が無理だよ!」
そんなことを夢見ているが、いつも結局振られてしまうから恋人ができても1年も持たない。しかも毎回理由を聞いても、ダメな所を直すと言っても「ごめん」しか言われないんだ。
そう、だから僕の恋愛は慎重にならないといけない。佐々木くんのこと気にしてる場合じゃ…。
あれ、今なんでそこで佐々木くんが出てきたんだろう。
「ううん!とにかく次も慎重にならないと…」
「え?まー慎重になりすぎても良くないって!俺らまだ若いんだし、砕けてこうぜ」
「砕け…って、そういう俊太はどうなんだよ、昨日の合コンでいい人いなかったの?」
「んーみんなと遊んでて楽しいなとは思ったけど、気になる子はいなかったな」
「え、てか大学入った時から彼女いないよな?お前こそ慎重じゃん!」
「あっははは、バレた?」
俊太とそんなこと話しながら、講義室から離れた1階の学食まで来たら、少し食欲湧いてきた。
いつもこうやって肩を組みながらバカな話ばかりしてるけど、そんな俊太のおかげで、落ち込むことがあっても元気が出るから。いつも楽しいし本当に良い奴だとつくづく思っている。
「俊太、何食べんの?今日奢るよ」
「え!?マジで!いいの?サンキュー!あ、今日半額の日だからだろ!」
「まあまあ、いいじゃん!僕これ、ハンバーグ定食にしよ」
「決めるの早すぎだろ!えーっと、じゃあ俺は…」
俊太がメニューを吟味している間、キョロキョロと辺りを見回してテーブル席が空いているか探した。この学食美味しいし、昼は特に混むから。
「……あ、」
そうやって、まんべんなく学食中を見回していたのに…
「!!えっ」
ぼやけていたピントが合ったみたいに、1人。黒髪の男の子と思い切り目が合った。
やっぱり、朝すれ違った人は見間違いではなかったんだ。これで確信した。気付いたのは僕だけでないらしく、目が合った相手もハッとした顔で目を開く。
「俺、このBランチにするー…って、おい叶羽?どした?」
「あ、いや…今そこに昨日飲み会にいた同級生がいて」
「え!?まじ!?朝言ってた高校の同級生!?」
「う、うん」
本当に同じ大学だったんだ…。
「あ…原崎くんだよね?」
いつの間にかこちらへ歩いてきてた佐々木くんは、昨日と同じノーセットの前髪を揺らして、ゆるいシャツを着ている。シンプルな格好なのに、妖艶に感じるものがある。
周りの女子も、そんな佐々木くんの魅力にチラチラと視線を送っている。
「え、あ…!うん、佐々木くん。まさか同じ大学だったなんて、びっくりしたよ」
「うん、昨日色々話したのに、大学のこと全然話してなかったね。俺が聞いてなかったのかもしれないけど。すごい偶然」
偶然にしては重なりすぎてる気もするが、なるべくしてなった事実なのか。落ち着き始めていた胸が、またドクドクと騒ぎ出してしまう気がした。
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