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終.
――サムの言うところの、“8時間50分49秒”前。
メンテナンスを終えた直後。
気は進まなかったが、部屋に戻ってすぐサムに相談をした。
一介のメカニックであるはずのアザレアが、頭領の首の在り処を――諜報員でさえ未だに掴めずにいる情報を容易く知っていたこと。
単純なことではあったが、違和感がどうしても拭えずにいた。
だから相談したのだが……案の定[だから気を付けろと言ったのに]だと何だのと、小一時間説教された。
それからようやく、今後どうするか作戦を立て合った。
万一の時のために、万能解毒剤を奥歯に仕込んで置くよう推奨したのもサムだった。
[――しかし、キミがまさか囮になると言い出した時は驚いたな]
「貴方との通信を切って、“無防備な小娘”を演じていればアザレアも油断すると思っただけよ」
作戦を立てた段階の時は、まだ警戒レベルだった。
もしただの杞憂であって、本当に鬼の頭領の首があれば万々歳であったのだが……
実際、アザレアはスズルがサムと来ると思いジャミングマシーンを用意していたと言っていた。
しかし予想外にもサムとの連絡を断ち、武器を持っていたとはいえどSAMが使えないスズルを“ただの無力な小娘”と見なして完全に油断した。
[……失望したかい?]
「まぁね」
[今は苦無で固定しているだけのようだが、これからどうするつもりだい?]
「……どうもしないわ」
[なに?]
「このままの状態で組織に連絡すれば、機動課がすぐ駆け付けてくれる。組織に戻って記憶遡り術を私が受ければ、動かぬ証拠になる……後はボスが決めるでしょ」
“記憶遡り術”――対象人物の脳から記憶を映し出す魔法のことだ。
もし悪い予感が当たって、アザレアが何かしでかしたらその記憶を証拠にアザレアを組織に付き出そうと考えていた。
[………………]
「何よ」
[いや、確かにそうだが……良いのか、先程キミの記憶を読み取ったが……]
「コレクターズに近付くためよ。私の辱めくらい、売ってやるわ」
そこまで考えていたとは……
正直、サムは驚愕した。
スズルが、また衝動に任せて殺すかと踏んでいたからだ。
だが今回。怒りが湧いたのは確かだろうが、冷静に対処し自分を起動させてくれた。
だがきっと、今後もスズルの怒りに振り回され続ける可能性もなくはない。
「何笑ってるのよ」
[笑っている? 私が?]
「他に誰がいるのよ」
笑ってる……? 自分がか。
……成る程。確かに。
もし自分にも人間のような身体があれば、これは“笑っている”のかもしれない。
そう考えながら、サムは情報伝達の電波を組織に送った。
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