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参.
深夜。
スズルはアザレアに言われた通り、こっそりとアジトを抜け出した。
目的地はアジトから北方面に1km離れた森、更にその奥にある洞窟。
アザレアとは、そこの出入り口手前で落ち合うことになっていた。
「やぁ、待っていたよ」
「お待たせして申し訳ありません、勘付いたサムにバラされそうになってしまい……」
「本当かい? それじゃあ今……」
「はい。無理矢理シャットダウンして来ました」
つまり、今魔導液補填機は起動していない状態にあった。
正直、魔導液補填機の無起動――即ちサムのサポートなしでコレクターズを相手にするのは苦どころの話ではないと重々理解している。
だが、スズルには厳しい修行に耐え抜いてきた2年間の実績もある。
しかも今回は1人でなく、アザレアもいる。
敵の足止めくらいならば、何とか出来る。その隙にアザレアが頭領の首を取り返してくれれば……
「それじゃあ、行こうか」
「はい」
もうすぐ頭領を取り戻せる。
期待と緊張で高鳴る心音を抑え、アザレアの後に続き闇の中へと足を踏み入れた。
灯火の呪文で僅かに照らされる洞窟の様子。
まだまだ先は長いのか。
闇がひたすら続き、騒ぐ声もいびきさえも響いて来ない。
どれくらいかかりそうなのか尋ねようとした矢先。
何かが、鼻腔の神経を刺激した。
(この匂い……まさか……!)
狂しくなるほどの、甘い蜜に水を垂らしたような花の匂い。
悪夢を見る度、よみがえり刻まれる匂い。
忘れようにも忘れられない匂いだと気付いた時には、もう遅かった。
微かに、辛うじて見上げた時に見えたアザレアの口元は――――
変わらず、微笑っていた。
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