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ここはとある田舎町のバス停。
小学校へ向かうスクールバスを、男子四人が待っていた。
この話の主人公である凪と親友である紡、春斗、虎太郎はいつも四人だ。
「今日も朝日が眩しい。まるで俺を祝福してくれているかのようだ」
春斗が朝にも関わらず元気な声で独り言を言っている。
大げさに言っているが、ただ言っている事は、今日晴れているというだけだ。
虎太郎に至っては読んでいる本から目線もあげていない。
「そ、そういえば、き、昨日やってた戦隊ヒーロー、アキレス、み、みた?」
気まずい空気を感じた紡がどもりながら問いかけると、凪と虎太郎は頷いた。
春斗は誰も聞いていない独り言を、高らかと言っている。
「見ない奴なんて居るのかよ、そんな奴はクズ以外の何者でもないだろ」
凪が毒舌を吐きながら言う。
「至高」
虎太郎は本から目を離さずに、言葉少なめに答える。
アキレスは今小学生の間で人気の番組の一つである。
コント番組であり、色々なお笑い芸人が15分程のコントを行っている番組だ。
その中の一つに戦隊ヒーローアキレスというキャラクターが居る。
お笑いコンビのモリヤスというコンビの内の一人、ヤスダが変身して怪人と戦い、世界を平和にするというコントだ。
その中でアキレスは何故か変身をすると、服を脱いでほぼ全裸になる。
それを相方であるモリがお盆で隠しつつ、怪人と戦うのフォローするという、親が嫌いそうな番組だが、子供達には人気が沸騰している。
最初は15分の短い長さだったというのに、たまに1時間丸々使って、ゲストに旬の俳優などを呼んだり、とてもお笑い番組とは思えない程のクオリティのものを放映したりする。
もちろん四人も毎週楽しみにしている。
同じものが好きだというのは、それだけで連帯感が湧くものだ。
「ま、まさかアキレスが、お、お尻から火を吹いて終わるとは予想外だったよね。ぼ、僕てっきり負けちゃうかと思ったけど、ま、まさか逆転して終わるとは思わなかった」
「確かに金かかってそうだったよな」
「是」
「きょ、今日の放課後、や、やらない?」
紡の提案に凪と虎太郎は喜んで頷いた。
まだまだ戦隊ヒーローの真似事をしたい年頃なのです。
「オレ、絶対アキレスやる」
春斗がいきなり話の中に入ってきた。
こうやって、いつも美味しい所を悪気なく持っていこうとする。
空気が読めないと言われているが、空気は透明だから元々読めない。などと言い張るのが春斗なのである。
「春斗セリフ覚えてるのかよ?」
凪が春斗をバカにしたように噛みつくのもいつもの事だ。
「覚えてるに決まってるだろ。ちゃんと忘れないようにメモしたんだからな」
そう言って春斗がポケットに手を入れる。
そこにはボロボロになった紙切れが入っていた。
「あー、昨日洗濯する時にポケットから出し忘れた。母ちゃんめ。何で確認してくれないんだ」
「ど、どんまい」
「春斗、怪人」
フォローする紡に、さりげなく春斗を落とそうとする虎太郎。
興味なさそうにしているが、誰だってヒーロー役をやりたいのだ。
「そうだな、怪人役はとりあえずやられてればいいもんな。バカな春斗でも出来る出来る」
はっきりと蹴落とすのは凪だ。
「はあ?ヤダよ。俺だってアキレスやりたいよ。大体さ、口の悪い凪に正義の味方が出来ると思うのか?否。本を読みながら見てたような虎太郎がアキレスの魅力を再現出来ると思うのか?否。となると主人公は俺にしか務まらないだろう」
胸を張って春斗は主張するが、二人は冷たい目をしている。
ただ紡だけは感動したかのように目をキラキラとさせている。
自分は候補にすら上がっていないという事に気がついてないようだ。
「筋肉バカ」
眼鏡のブリッジを上げながら虎太郎が言う。
「何だと」
「そうだよ、筋肉バカ。お前には怪人役がお似合いだっつーの」
「や、やめなよ。二人共。ぼ、僕が交代しながらやるから」
あわあわと二人の諍いを止めようとしている紡にガソリンを注ぐ凪もいつもの事だ。
「何言ってるんだ。紡が怪人役なのは決まってる事だろ?」
「そうだよな」
さっきまで揉めていた事なんて感じさせないぐらい当然のように凪と春斗が言うから、紡が困惑して虎太郎を見ると、虎太郎は一つ頷いて言った。
「然り」
「え、え、そうなの?」
何故か諍いを止めようとした紡が貧乏くじを引かされるのも、いつもの事だ。
「お、バスが来たみたいだぞ」
まだ大分距離が離れていて三人にはバスは見えなかったが、春斗には見えたらしい。
証明するかのように、遅れて三人にもバスが向かって来たのが見えた。
まさに野生にとしか思えない。
バスが止まると、四人は順番にバスへと乗り込み学校へと向かう。
これもまたいつもの事である。
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