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学校の前でバスが止まったので、凪を含んだスクールバスに乗っていた面々はいつも通りにバスを降りて、各々の下駄箱へと向かう。
何十年も同じ場所に立っている小学校は、十年前に改装したが古いという印象がある。
でも他に小学校も無いのでこの町の生徒にとっては、これが普通である。
「おはよう、凪」
ちょうど登校時間が同じだったのか、同じクラスの瑛茉が挨拶をしてくる。
瑛茉の後ろには梨乃が一緒に居た。
「おはよう、瑛茉。二人は相変わらず金魚の糞ごっこかよ。いい加減に飽きないのかよ」
「凪だって、いっつも四人でつるんでるじゃない。私よりも人数多いくせに粋がってカッコ悪い」
「言ったな!」
「な、凪」
「瑛茉」
悪態をついている凪を、紡が。瑛茉を梨乃が慌てて止める。
二人の相性は最悪に悪い。
その理由の一つに凪が瑛茉の事が好きだという思いがある。
茶色のフワフワの髪にピンク色のリボンをつけている瑛茉はクラスの女子の中で一番可愛い。と密かに凪は思っている。
だけど、眼の前にすると何を話していいのか分からなくなってしまい、つい悪口が口から出てしまうのだ。
そしてフワフワとした外見とは裏腹に、瑛茉は結構気が強い。
なので会うとすぐに口喧嘩に発展してしまう。
その事が分かっている虎太郎は、素直になれない凪を見て、密かに笑っている。
後で殴ると凪は心の中で決めた。
春斗?
奴は色恋という些細な機微など分かる訳がない。
同じ運動部の男子を見かけて挨拶をしている。
論外である。
「全く、本当に凪って口が悪いんだから」
「瑛茉も負けてないわよ」
ぷんすかしている瑛茉に呆れたように梨乃が言う。
「あ、忘れる所だったわ。凪、今日の放課後話があるから、少し時間もらえる?」
凪の胸は高鳴った。
放課後に話があるっていう事は、これはもしかして告白じゃないだろうか。
もしかして瑛茉と自分は両思いだったのかと期待を膨らます。
「ああ、それは駄目だ。今日は凪は俺たちとアキレスごっこをする約束があるんだ。先に予約したのは俺達なんだから別の日にしてくれ」
凪が答えるよりも先に、別の男子と話していたはずの虎太郎が答えてしまう。
「春斗、そんなくだらない遊びまだしてるの?」
思わずといったように梨乃が言う。
さすがに女子の方が精神年齢は高い。
もうごっこ遊びなんてしないのだろうが、馬鹿にされたと感じた春斗が怒る。
「はあ?まさか梨乃はアキレスの事が嫌いなのか?」
「そんな事は言ってないわよ。ふん、もういいわよ。虎太郎と話しててもつまんないし。瑛茉も、凪は予定があるっていうし良いわよ」
「そうね。別に大した用じゃないし、また今度でいいわね」
そう言って梨乃はプリプリと怒りながら、瑛茉と教室へと向かってしまう。
あまりの出来事に止める事も出来ず、凪は固まっていた。
「なんだ梨乃の奴。朝からカリカリしやがって。腹でも減ってるのか?」
全く何も考えていない春斗に、虎太郎は持っていた本で無言で頭を叩く。
「いってえな。暴力的だぞ、虎太郎。もっとカルシウムとれ」
「無神経」
「ぼ、僕も今のは春斗が悪いと思うよ」
春斗は意味が分からないというように首を傾げる。
いつもは暴力があったら一番に止めに入る紡までもが虎太郎の暴力を止めない。
「何だよ二人して。分かった分かった。よく分からないけど俺が悪かったよ。おい凪。ボーッとしてないでさっさと教室へ行くぞ」
春斗の言葉に我に返った凪は春斗のスネを蹴ってから教室へと向かった。
蹴った足の方が痛かったという事は意地でも言わなかった。
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