鳩+ミミズ=デラックスバーガー?

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 退屈で眠くなりそうな授業が終わる。  一時間目は国語、二時間目は算数、三時間目は英語、午前最後の授業であった社会の授業が、流れるように終わる。  今日は松田先生の機嫌が良かったようで、四時間目の授業が少し長引いてしまった。 「腹減ったなー。今日は限定のデラックスハンバーガーは残ってるかな」  授業の大半を寝ていただけなのに、春斗はお腹の音を鳴らしている。  四人はいつもより急いで食堂へと向かう。  基本的にこの小学校では給食は出ない。  代わりに食堂がある。  偏食の子供にとっては有り難い事ではあるが、大半の小学校のように給食が出ないというのは、珍しい事だろう。  それにはこの学校の成り立ちが関係している。  第七小学校の校舎は、元々私立のインターナショナルスクールであったものを改築してできたのである。  何十年も舞えインターナショナルスクールがブームになった時に作られたもので、田舎の割には外国人が多かった。  しかし少子化の煽りを受けて徐々に寂れていき、経営は破綻。  当時の町長がこの学校を買い取り、元々あった公立の小学校は老朽化が進んでいた事もあって取り壊され、名前だけがこの校舎に引き継がれたのである。  大体の生徒はお弁当を持ってきているが、虎太郎の親は仕事で忙しい時はお弁当が無い日も多く、ほとんどが食堂の売店利用だ。   食堂ではランチは勿論、パンやおにぎりなどの軽食も売っていて、食堂で食べなくてもいい。  春斗もお弁当を持ってきているが、大体足りなくなるので食堂でパンやおにぎりなどを購入して食べている。  その中でもデラックスバーガーは、この町にはまだ入ってきたばかりのチェーン店のハンバーガーに似ている上に、値段も安いという事で大人気なのだ。 「今日は授業長引いたから残ってないかもよ。なんで松田先生って機嫌が良い時は授業長引くんだろうな。本当に最悪だよ。休みも短くなるし。さっさと男作って結婚してやめろって感じ」 「同意」 「き、聞こえたら宿題増やされるよ。な、無かったら僕のからあげで良かったら、虎太郎に分けてあげるから」 「謝謝」    目当ての物が手に入らなかったのか、虎太郎がガッカリしているのを紡が慰めながら中庭へと向かう。  春斗はラスト一つだったデラックスバーガーが購入出来たから上機嫌だった。  お弁当の場合は教室で食べる生徒も居るが、四人は中庭で食べる事が多い。  そのまま遊びに行けるというメリットがあるからだ。  学校の何が楽しみかというと、昼休みなのは当然の事である。 「お、坊主たち。授業終わったのか」  学校の用務員であるニコラスが四人を見かけて声を掛けてくる。  片手には缶コーヒーを持っていて、明らかにさぼっていたとしか思えない。 「「こんにちは、ニコラスさん」」  ニコラス・シガーは校内の掃除をしたり、受付をしていたりする30代のおじさんだ。  この町では珍しい金髪碧眼でアメリカ人の両親から生まれ、この町で育ったという。  なんとこの学校がインターナショナルスクール時代だった時の卒業生でもあるという。  若い頃は相当なイケメンで、都会で働いていたが、三年前にこの町に戻ってきて何故か母校であるこの学校の用務員をしている。  都会に興味のある年頃の四人は、色々と都会の話を聞きたいがために時々話し相手になってあげている。 「坊主たちは偉いよな。月曜日から元気に学校に来て。俺が学生の頃はサボって遊びに行っていたりしてたもんなのに。もっと人生楽しんだ方がいいぞ」  学校の関係者なのにズル休みを進めるだなんて、本当に駄目な大人である。  校長がニコラスを何故用務員として雇ったのか分からない。 「ニコラスさんは休みは何してたんですか?」 「パチンコかな」  ニコラスはヘラっとした顔で答える。  楽しんだ挙げ句にニコラスのような大人になるんだったら、真面目に学校へ来た方が友達にも会えるし楽しいからマシだと四人は心の中で思った。   「クズ」  いや、心の中で抑えきれない者も居た。 「虎太郎、いくら事実でもはっきり言ったら可愛そうだよ。小学校の用務員なんて、給料も少なくて女も誘えないくらい貧乏で可哀想な人なんだから」 「凪の方が辛辣じゃない?」  田舎の娯楽なんてパチンコしかないというのに、虎太郎の辛辣な一言に凪が追い打ちをかける。  言われた本人は慣れているのかヘラヘラと笑っている。 「そんなんだと体力がつかないだろ。俺がおすすめする筋トレの本でも貸してやろうか?」  春斗は本気で心配して言っている。 「小学生に心配されるってマジで自分にガッカリだわ」  ニコラスの大げさなリアクションが面白かったのか四人はケラケラと笑う。 「お、紡うまそうな弁当食ってるじゃないか。俺に少し分けてくれないか?」 「あ、あ、あげないよ」  紡が持っていたお弁当を本気で隠し睨むが、本人が睨んでいるつもりだろうが、涙目なせいか全く迫力がなかった。 「ニコラスさん、大人なのに子供にかつあげするなよ。食堂でパンがまだ売ってるよ」 「デラックスバーガーはもう無かったけどな」 「昨日結構な額スッちゃって給料日まで金無いんだよ。何かいい金を稼ぐ方法ってないか?」  小学生に金の稼ぎ方を聞くなんて虎太郎の言う通りクズとしか思えない言動だったが、これもまたいつもの事だ。 「腎臓でも売ったらどうだ?紡の親だったら高く買ってくれるよ」 「な、凪。ぱ、パパは治すだけで売り買いはしてないと思うよ」 「そっか。一個ぐらい無くなっても困らないだろうし、もう少し金があれば当たりが引けたかもしれないだろうし残念だな」  明らかにニコラスは適当に返事をしている。  そもそも、パチンコの資金に一個無くなってもいいのだろうか?  そしてチャイムが鳴る。 「お、チャイムが鳴った。もしかしたら売れ残りを分けて貰えるかもしれないから、いってくる」  四人も食べ終えたお弁当やゴミを片付けてから、そのまま校庭へと駆けていき、昼休みを遊ぶ事にした。
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